エネルギーを漏らさず
「ここぞ」という場面で使う

 日々多くの情報に囲まれて生活している私たちは、ときには心の傘を差して、情報をうまくよけながら、静かな空間に身を置く必要があります。

 いわば、安心の家を心の中につくるということ。それが、求められている日常のルーティンワークであるということです。

 余計なことに目を向けないということは、すなわちエネルギーを漏電させないということです。起きている間ずっとスマホを握りしめ、絶えずSNSに応え続けるというのは、エンジンをアイドリングしてガソリンを少しずつ消耗しているようなものです。反対に、エネルギーを漏らさずしっかり溜めていけば、ここぞという場面で一気に使うことができます。

 思考のエネルギーは誰にでもある程度は備わっていますが、その使い方は人によって千差万別です。頭がいい人は無駄なく溜めたうえで、勝負どころで使うことができるのです。

 この「勝負のとき」という意味では、頭がいい人は「ゴールデンタイム」ともいうべき時間軸の概念をもっています。これはゾーンに入る時間といってもいいでしょう。

 もっている時間が3時間なら、たとえば1時間ゾーンに入って集中する。そのために2時間を「無駄」に見えることに使ってもいいのです。

 近代建築の三大巨匠の一人として知られるル・コルビュジエは、約50年という期間を建築家として生きましたが、そのルーティンも非常に興味深いものでした。なにしろ、午前中はすべて絵を描くことに時間を費やし、建築設計事務所に顔を出すのは午後からだったそうです。

 コルビュジエの中で、絵を描くことと建築設計は、芸術という枠の中で地続きにつながっていたのかもしれません。限られた時間の半分を建築以外に割いたとしても、それが結果的に設計への意識を掻き立ててくれていたのでしょう。

 クリエイティブな人ほど、一見無駄に見える時間を自分のために使っているものです。

 いわば、精神に何かが降りてくるのを待つ、そのために遊ぶ、ぼーっとする、散歩をする。他人の目にどう映るかは関係ありません。

 ルーティンにも通じることですが、「これをすれば自分はON状態になれる」という自分だけのスイッチを知っておくと便利です。

 フランスの文豪オノレ・ド・バルザックは、夕方にいったん寝てから真夜中に起き、コーヒーをがぶ飲みしてから執筆作業に取りかかったそうです。本人曰く、日に50杯ほども飲んだといいますから尋常ではありません。バルザックはコーヒーを自分の「援軍」として位置づけ、その助けを借りながら、徹夜の執筆作業という孤独な戦いを続けたともいわれています。

 コーヒーの飲みすぎが医学的にどうであるかはさておき、その明らかに普通とは異なる時間の使い方が、彼にとっては最もしっくりくるルーティンだったわけです。