(1) 聴き手の関心を理解している
自己PRが上手な人は、聴き手の関心やニーズを理解し、それに合わせて自分の経験やスキルを紹介する。これは、コミュニケーションの基本であるが、実行は容易ではない。相手が最も関心を持っているポイントに焦点を当て、その関心に応えるコミュニケーションをするためには、次のようなしっかりした準備が必要だからである。
・事前リサーチ
相手の背景、関心事、業界の動向、企業の文化や目標などを事前に調査する。これは、面接、ビジネスミーティング、ネットワーキングの場など、さまざまな場で役立つ。
・マッチング
聴き手の関心やニーズに直接関連する自分の経験や要素を選び出し、それらを具体的に、後述する事例やストーリーを通じて紹介する。ただし関心やニーズの予測は外れることもあるので、いくつか候補を想定して準備をしておく必要がある。
せっかく関心を捉えた話をしても、前置きが長かったり、余談に流れ過ぎたりして、相手の関心から外れることもあるので注意しなくてはならない。また、たまに、事前リサーチをせずとも、状況に合わせて臨機応変に対応できる達人もいるが、普通の人は、準備なしでは、まず失敗する。地道に入念なリサーチとマッチング、およびシミュレーションをすることを強くおすすめする。
(2) 具体的な数字や事実の提示している
数字を使って具体的な成果を語ることは重要である。数字や事実を用いて自分の経験を裏付けることで、説得力のある自己PRが可能になる。その際、できるだけ客観性を保ち、“自慢ではない”と認識してもらえるようにすることが重要である。ポイントは次の3つだ。
・数値と事実を用いる
実績や成果を伝える際には、可能な限り具体的な数値を用いて表現する。成長率、削減率、顧客満足度など、数値を示されると真実味が増す。また、事実を話すことも重要である。具体的なプロジェクト、成果物、表明された発言など、数値と事実(ファクト)が挿入されるだけで、聞き手から見たときの信頼感が大幅に向上する。
・成果の背景と結果の意義を説明する
成果を上げたプロジェクトや活動の背景を簡潔に説明し、あわせて、自分がどのような役割を果たしたかを具体的かつ端的に説明する。そして、成果が持つ意義や影響を強調する。チームにとっての成果の価値を具体的に示すことで、(結果的に)自分の貢献度を際立たせることができる。このとき、全体の成果の意義は述べても、自分の成果の重要性は述べてはいけない。自慢するのは全体であって、個人ではないということが重要である。
・形容詞は使わない
自己PRが下手な人は、数字ではなく、“非常に”“かなり”といった形容詞が多い。形容詞はできるだけ使わないことが重要である。また、人はみんなで一緒に努力した全体の成果を自慢されても嫌な気にならないものだが、個人的な貢献を自慢されたとたんに嫌な気持ちになる。不思議なものだが、人間心理を十分に考えた言葉づかいが必要である。
(3) ストーリーテリングが巧み
自分の経験や実績を魅力的なストーリーとして伝える技術があると、人は語り手の話に引き込まれる。ストーリーテリングは、自己PRをする上で極めて効果的な手法で、聴き手の記憶に残りやすく、共感や興味を引き出すことができる。
・「はじまり、中盤、おわり」の構成にする
明確な構造を持った物語は、聴き手にとって追いやすく、関心を持続させることができる。挑戦や問題(はじまり、序)、取り組み(途中、中段)、成果や学び(おわり、結論)という流れで話を組み立てる。具体的には、「私が赴任したときには○○のような問題があった(はじまり)。その困難を克服するために、こんな仮説を立て手を打ったが、まったくうまくいかなかった。ところがある日、偶然にも○○さんに出会い、そこでこういう解決のヒントを得た。それをもとに別の手を打ってみたところ、最終的には、○○(数字)の成果を得た(中段)。ここから学んだことは○○である(おわり)」といったような形である。なんとも陳腐で噴飯ものの筋書きである。しかし、人はこういう風に説明されると記憶に残りやすい。
・自分の感情と具体的な逸話を含める
自分が経験した感情や思いを物語に織り交ぜることで、聴き手の共感を呼ぶことができる。挑戦や失敗から得たもの、成功の喜びなど、人間味のあるエピソードは聴き手の記憶に残りやすい。具体的な場所、時間、人物などの詳細を物語に加えることで、よりリアリティを高めることができる。
世の中にはストーリーテリングの達人がいて、こういう人は、小さなことを大したものであるかのように見せかけ、本当は別の人の成果なのに、なぜかその人が大活躍したように思わせている。こういう人は偉くなる。なんだかなあ、といつも思う。