注意されることは全否定されることではない

榎本博明『「指示通り」ができない人たち』(日経プレミアシリーズ)榎本博明『「指示通り」ができない人たち』(日経プレミアシリーズ)

 さらには、注意されると自分を全否定されたかのように反発するのは、仕事のやり方と自分を区別しないことによるものだということに気づいてもらう必要がある。

 そこで大事なのは、行為と自分を切り離してとらえることである。だれかに仕事のやり方が違うと注意されたとしても、それは自分が否定されたのではなく、やり方が否定されただけである。能率の悪いやり方を注意された場合も、それはやり方が否定されただけであって、自分が否定されたわけではない。注意されたやり方を変えれば、うまくできるようになったり、能率よくこなせるようになったりする。それは自分の成長につながる。そのことに気づかせるような対話をしていくことが大切となる。

 注意に反発するだけでなく、アドバイスにさえ反発する人もいる。行為と自分を切り離すことができていないと、親切なアドバイスにさえ反発することになりかねない。

 たとえば、「こういうふうにやった方が能率がいいですよ」というアドバイスは、今自分がしているやり方は能率が悪いということを示唆しているわけである。その場合、行為と自分を切り離している人なら、「それはありがたい」と思い、アドバイスしてもらったやり方を早速取り入れるだろうが、行為と自分を切り離すことができていない人は、自分を否定されたように感じてしまう。そのため、感情的に反発し、素直にアドバイスに従って能率の良いやり方を取ろうとしない。それでは困る。だからこそ、行為と自分を切り離してとらえる必要があるのである。

 このような気づきを促す対話をしていくことで、注意されてもいちいち反発せずに、注意されたことを糧にして成長していけるようになることが期待できる。