卸売価格が下がっている理由は、食材としての人気ぶりや補助金に惹かれ、生産への参入が相次ぎ、供給過剰に陥っているからだ。不作により価格が一時的に上がることもあるものの、基調としては値崩れ気味である。
台風の目となっているのが、2割近くを生産する生産量日本一の熊本県だ。生産性の高いハウス栽培を行政が補助金も使って支援してきた。同県において、ハウス栽培のトマトの収穫量は、2016年の12万4716トンから22年に13万4449トンまで増えている。
2016年に熊本地震が起きた際、トマトをはじめとする野菜のハウスも被災し、安定供給が揺らぎかねないと心配された。復興のための補助金も使ってハウスが再建されたり、さらには拡張や、既存の施設の効率化が図られたりした。その結果、皮肉なことに供給過剰の一因となっている。
もちろん、熊本だけが原因ではない。国内で最も栽培面積が広い作物はコメだが、作りたい生産者が多い割に、需要量は年間10万トンのペースで減っている。そこで、コメをやめて野菜や花といった園芸作物を生産しようという「園芸振興」が全国的にもてはやされている。儲かる作物として各地で注目され、作付けされたのが、ほかでもないトマトだった。
こうした理由から、ブルーオーシャンと目されていたトマトの生産は、かえってレッドオーシャンと化しつつあった。
卸売価格が下がっても
スーパーでは高値が続くワケ
トマトは総じてだぶつき気味ながら、昨夏から秋にかけては例外的に、猛暑による不作で店頭価格が倍近くまで高騰した。
卸売価格は一時、1000円を突破し、平年の同じ時期の倍以上に到達。11月に入ってようやく落ち着いた。ところがこの後、奇妙なことが起きる。12月に卸売価格は平年を下回ったにもかかわらず、小売価格は平年に比べて6~17%高いままだった(農水省「食品価格動向調査(野菜)」による)。
卸売価格が絶壁を滑り落ちるかのように急落したのを傍目に、小売価格は遅れて緩やかに下がっていった。卸売価格が下がっても、小売店が仕入れ価格に応じた値下げをしない期間があったようだ。ある種の便乗値上げと言えそうで、小売店の経営の余裕のなさを反映していると考えられる。