この価格維持について、小売店が適正な利益水準を模索しているとの受け止めもある。スーパーと言えば、かつてのダイエーに代表されるように、価格破壊を志向しがちだった。だが、商品の製造原価が上がる状況下、適正な価格で売って利益を得る方向に業界を挙げて変わる可能性もある。過渡期だけに、一度値上がりした商品で、利幅の確保を試みているのかもしれない。
オランダの5分の1
低すぎる日本の栽培効率
昨年の価格高騰に、トマトの供給体制が変わる予兆を感じ取った人がいる。株式会社大和証券グループ本社(東京都千代田区)の子会社・大和フード&アグリ株式会社(同)の社長・久枝和昇さんだ。
同社は大分県玖珠(くす)町の約1ヘクタールでトマトを生産する農業法人・株式会社みらいの畑からを2020年に買収していて、久枝さんはその社長も兼ねる。施設園芸の業界でよく知られた農業コンサルタントで、トマトの生産に長年携わってきた。
「高い価格が何カ月にもわたって続くという、今までなかったことが起きた。気候変動という要因もあるが、人という要因も影響し、これまでにない事態が生じる時代になる」
農家の高齢化や人手不足で先の読みにくい時代になる。供給過剰という現状は1年や2年で変わるものではないとの見方を示しつつ、「トマト関連のビジネスは、今後5年くらいのスパンで見ると、大きく変化するタイミングが来るはず」と話す。そうなったとき、「従来型のやり方では乗り越えられない」。
従来型のやり方とは、経験と勘に頼り、効率の悪い栽培方法や施設のまま、低い収量に甘んじることを指す。トマトの収量が最も高いのはオランダで、日本の面積当たりの平均収量はその5分の1程度でしかない。
経験と勘が頼りでも、熟練さえすれば問題ないと思われるかもしれない。ところが、近年の異常気象には、経験と勘では歯が立たなくなっている。久枝さんは言う。