民主党政権時代はなぜ「報道の自由がある」と評価された?

 このような「The system of kisha clubsこそが諸悪の根源」という視点を持つと、「好き勝手に政府を叩ける国」が、なぜジャーナリストが殺害・逮捕されるような国よりも「報道の自由がない」などと評価されてしまうのか、という謎の答えが見えてくる。

 例えば、今回は「70位」が注目されているが、日本への評価は、この10年ほど、ずっとこんなものだ。15年は61位で、16年にはなんと過去最低の72位まで転落。そこから18年〜21年は多少持ち直して、66〜67位あたりをキープしたが22年は再び71位まで下げ、23年に68位になったがやっぱり落ち込んで今年は70位になったという流れだ。

 では、その前にはどうだったのかというと、民主党政権の2010年に11位、12年に22位イギリスやアメリカを上回るほどだった。しかし、自民党が2012年12月に政権奪回した直後の13年に53位へと急落している。

 では、なんで民主党政権の時だけ「報道の自由がある」と評価されたのか。これは別に民主党がメディアに特段優しかったわけでもないし、その後の自民党政権が急に言論弾圧を始めたわけでもない。

 この時期だけ閉鎖的な記者クラブに「開放」という動きがあったからだ。当時、主要新聞社の労働組合が加盟している「新聞労連」が2010年3月4日、「記者会見の全面開放宣言~記者クラブ改革へ踏み出そう~」という声明を引用させていただこう。

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記者会見については、昨年9月の民主、社民、国民新の3党による連立政権の発足後、外務省や総務省などの省庁で「大臣会見のオープン化」が広がっています。本来ならば記者クラブ側が主体的に会見のオープン化を実現すべきでしたが、公権力が主導する形で開放されたのは、残念であると言わざるをえません。
(中略)
まず、記者クラブに所属していない取材者にとってニーズが強く、記者クラブ側にとっても取り組みやすいと思われる記者会見の全面開放をただちに進めることから始めましょう。
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 この「記者クラブ全面開放」は、民主党政権崩壊とともに幻で終わった。だから12年に22位だったのが、13年に自民党が政権奪還すると急に53位に転落したのである。

記者クラブでは、「無知」でも優秀な記者になれる

 自民党政権でアクセスジャーナリズムが深刻になったことがうかがえるエピソードがある。安倍元首相の番記者を長く務めてスクープも連発した某ジャーナリストの方が、報道番組に出演して旧統一教会との関係を知っていたのかと問われて、こう答えた。

「いや残念ながら記者時代、私はまったく把握していなかったんですね」

 これは、世界のジャーナリズムの常識からしても「異常」と言わざるを得ない。

 週刊誌の世界では、安倍元首相と教団の関係は第一次安倍政権時代から記事になっている。岸信介と国際勝共連合との「共闘関係」は、タブーでもなんでもなく「史実」なので、ちょっと政治を取材した経験のあるジャーナリストならば誰でも知っている常識だ。ネットでも山ほど情報があふれていて、安倍元首相を殺害した山上徹也被告もそれを見て犯行を決意したと言われている。

 そんな「常識」を安倍元首相に24時間張り付いていたはずの番記者は知らなかった。

 いや、知識不足を批判しているのではなく、ここで大切なのは「知らなくても務まる」ということだ。先ほどから申し上げているように、「記者クラブ制度」が引き起こすアクセスジャーナリズムというのは、わかりやすくいえば、「権力者に気にいってもらってネタをもらう」ということだ。

 つまり、この方がスクープを連発したのは、安倍元首相に気に入ってもらってネタをもらえたからだ。気に入ってもらうのに、「旧統一教会との関係」なんて安倍元首相の嫌がる話は知らなくていい。これが、「優秀なマスコミ記者の流儀」なのだ。

「The system of kisha clubs」が存続する限り、日本の権力癒着型取材は変わらないだろう。

 テレビや新聞というオールドメディアは、高齢化でどんどん衰退していくので、生き残るためにより権力との癒着を強めていく。あと数年もすれば、日本の順位もいよいよ80位台に突入していくのではないか。

(ノンフィクションライター 窪田順生)

日本の「報道の自由度」は70位でコンゴ共和国以下!マスコミを萎縮させる諸悪の根源とは
【訂正】記事の初出時より以下の通り訂正します。
4段落目 例えば、日本よりも「報道の自由がある」という評価のコンゴ民主共和国(69位)は、法律で国家元首に対する侮辱や、公共の場での悪意ある発言を禁じている。そのため、ジャーナリストがちょくちょく逮捕・拘禁される。法務省の「コンゴ民主共和国人権報告書 2020年版」にもこんな地元のNGOの報告が掲載されている。
→例えば、日本よりも「報道の自由がある」という評価のコンゴ共和国(69位)は、外務省の海外安全情報によれば、一部地域で反政府勢力や犯罪集団等が活動して治安が悪い。当然、取材・言論活動をするジャーナリストにも危険が伴う。

5、9段落目 コンゴ民主共和国→コンゴ共和国