「新品を壊すなんて、もったいない!」
CG映像なのに“不快だ”と批判が続出する理由

 さて、この広告動画が受け入れられないのはそういった記号だけが問題ではないという別の意見もあります。新品の道具を押しつぶしてしまうのは「もったいない」ことでそれは「ひどい」行為だという意見です。

 野暮な指摘をひとつさせていただくと、おそらく潰された楽器はCGでしょう。実物を巨大なプレス機で破砕する映像を撮ろうとしたら広告の制作費用は間違いなく莫大なものになるはずです。なにしろ実物のプレス機はその重さから簡単には撮影スタジオに搬入できません。

 たとえ実物のプレス機で本物の楽器やテレビゲームを潰そうとしたとしても、広告クリエイターが期待する順序や形できれいにつぶれてくれるとは限りません。動画のように最後の最後にたまたまキャラクターの人形がつぶれてくれる展開など期待すらできないでしょう。何度もテイクしていい潰れ方を撮り直すのであれば、実物よりもCGの方が確実に制作コストは節約できます。

 ではCGで物を潰す行為は何がもったいないのでしょう?

 計算するのに巨大なデータセンターのリソースが必要ですから電力を浪費していることは間違いありませんが、視聴者が不快に感じるのはそこではなく、新品の物が無残に壊される様子です。

 昭和のドラマで物議をかもした場面にこういうシーンがありました。出演者がドラマの中でお札を燃やしてしまいます。これは時代を強く批評した社会ドラマで、「みんなお金ばかり追い求めるのが昨今の世の中だが、この世界にはお金よりもずっと大切なものがある」というメッセージを伝えた演出でした。ところがこのお札を燃やすという行為が、文字通り当時の社会で炎上します。

 もし同じドラマを令和の時代にリメイクしたとしたらどうでしょう。もちろん燃やす一万円札はCGです。それでも視聴者は強い不快感を感じるのではないでしょうか。やはり実物を壊したのか、CGを壊したのかは関係なく、記号が壊されたことをわれわれは不快に感じるのではないでしょうか。