「意志ある踊り場」とは、どこかで聞いた言葉と筆者は受け止めたが、それは10年前の14年3月期のトヨタ決算発表での当時の豊田章男社長の言だった。リーマンショック後の赤字転落や米国でのリコール問題などを乗り越えた14年3月期の純利益は、前期比89%増の1兆8231億円と当時の過去最高益を計上した。しかし、翌15年3月期の見通しは手堅く、その上で「15年3月期は意志ある踊り場」という言葉が、豊田章男社長から発せられたのだ。
あれから10年たち、豊田章男氏から後継社長に抜てきされた佐藤社長は「継承と進化」を就任の抱負で語った。トヨタの前期連結決算での営業益5兆円超えは、まさに「豊田章男トヨタ体制14年の積み重ね」が、円安などの追い風も受けて結実したということだろう。裏を返せば、佐藤トヨタ体制は就任から1年経過したが、まだ「継承」しただけで、進化あるいは“真価”を問われるのはこれからとなる。
今回の決算会見では、佐藤社長と昨年4月に就任した宮崎副社長がいずれも真面目な応答に終始して、どうも会見の席にいない豊田章男会長の姿がバックにいるような感を受けたのは筆者だけではないだろう。
よきもあしきも、豊田章男トヨタ体制が長年続いた結果として豊田章男氏の存在感が強いだけに、佐藤トヨタ体制での今後の足場固めの中で、「クルマ屋としてブレない軸でモビリティカンパニーへの変革を」という“佐藤カラー”がどこまで出せるのか、期待したい。
(佃モビリティ総研代表・NEXT MOBILITY主筆 佃 義夫)