岸田首相が目論む
外交での起死回生策

 岸田首相が自民党総裁選での再選に意欲満々な背景には、国賓としてアメリカを訪問し、バイデン大統領との蜜月関係を強固なものにできたことがある。

 岸田首相が帰国した後、バイデン大統領が、「日本とインドには『ゼノフォビア』(外国人嫌悪)」があり、移民を受け入れたがらない」などと発言したことは、岸田首相にとっては痛くも痒くもない。

 不法移民問題が大統領選挙で一大争点になっていることへのバイデン大統領の焦りや危機感からくる失言、そして移民票をあてにしたリップサービスと解釈すべきだろう。

 そんなことより、岸田首相にとっては、バイデン大統領と大統領専用車のビーストに同乗できたこと、陸海空の自衛隊と在日米軍の相互運用機能の強化や、半導体の供給網の強化で合意できたことは大きかった。

「私はバイデン大統領とともにある」ということを、日本国民や自民・公明両党に誇示することができたからである。

 岸田首相はさらに、5月1~6日、3泊6日という超過密スケジュールで、OECDの議長国としてフランスを、さらに対中包囲網を敷くためにパラグアイとブラジルというグローバルサウスと呼ばれる国々を歴訪した。

 そして、ほぼ同時期に、上川陽子外相をアフリカ歴訪に、そして木原稔防衛相を日米豪比4カ国防衛相会合のためハワイにと、まさに「手分け外交」で日本の存在感を示したことは、「外交の岸田」を再認識させるうえで十分だったろうと筆者は思う。

 訪米をホップ、その後の外交をステップとすれば、ジャンプとなるのが、6月13日から15日の日程でイタリア南東部プーリア州のリゾート、ボルゴ・エグナツィアで開催されるG7サミットだ。

 6月に衆議院の解散があるとすれば、その直前となるサミットで、岸田首相は去年の広島サミットを受け継ぎ、対中国、対ロシア、それに中東の安定などをめぐる問題で存在感を発揮しようとするに相違ない。

 解散がない場合は、7月9日からアメリカ・ワシントンDCで開催されるNATO首脳会議への出席も、岸田首相にとって好材料になる可能性が高い。

「岸田さんはバイデン大統領に追随しているだけ。防衛費を増額したりトマホークを大量購入したり、ウクライナ問題では戦後復興で貢献を約束したり、アメリカにしてみれば実にありがたい存在」(前述の自民党議員秘書)

 このような指摘もあるが、かつて安倍政権が「株価連動型内閣」と形容されたように、岸田首相の場合は、「バイデン大統領連動型」で政局を乗り切る腹積もりだろう。

 幸いなことに、トランプ前大統領が勝利するかもしれない大統領選挙は11月5日で、衆議院の解散が6月になろうと9月以降になろうと、バイデン大統領が敗れるかもしれない大統領選挙はそれより後になる。