ブラジルは特殊で、主人に陰謀を働いたアメリカ先住民、そしてとくにアフリカ人奴隷たちが標的になった。

2000年代でも起こる魔女狩り
現代アフリカの魔女迫害の背景

 アフリカではどうだろうか。超自然的な力を呼び出して人畜への害悪をなす、という点ではヨーロッパの魔女とよく似ていても、神に対抗する悪魔と契約を結んだ魔女、セクトをなした集団的存在の魔女という概念はここにはあまりなく、あくまで個人の、悪しき呪術師が標的となった。

 また魔女は祖先から魔女の霊を受け継ぐとの(ヨーロッパと同様な)考え方もあった。アフリカでの魔女狩りは昔から部族単位で行われていたが、植民地時代には沈静化した。

 ところが植民地から解放されて自由になると、魔女に味方する植民地時代の法律が現地民を憤らせていたこともあり、内戦が勃発したり地方軍閥が跋扈したりして政情不安・社会不安が高まると、魔女狩りが起きやすくなったのである。

 19世紀から20世紀にかけてリンチ殺人に近い魔女狩りの記録が残っているのは、南アフリカ、マダガスカル、ボツワナ、ジンバブエ、アンゴラ、コンゴ民主共和国、ウガンダ、カメルーン、ナイジェリア、ガーナなどである。

 今日でさえ南アフリカなどサハラ以南では、天候不順による穀物の不作や牛乳不足、原因不明の死亡や事故、さまざまな病気の蔓延に絡んで、魔女狩りが頻繁に起きている。南アフリカ北部のリンポポ州では、1996~2001年に600人以上の魔女が虐殺された。

 タンザニアでも20世紀末以降、魔術で人を殺したり病気にしたり不遇にしたりという廉で、主に老女数百人が怒れる村人によってリンチ殺人に遭った。コンゴ共和国でも2001年、800人以上の魔女が殺害され、ケニアでも同様の惨状に見舞われた。

 現代のアフリカにおける魔女迫害は、経済不況、飢餓危機、伝染病(とくにHIV)の恐怖、社会的緊張などを背景としている。

 汚職、民族紛争、イデオロギー対立などでアフリカの多くの国々の政権が弱体化して、そのことが「有害な呪術師」=魔女に対する大規模な迫害の下地を作ったのである。迫害は主に自警団やカルト集団によって実行されている。