一方、感情抑圧とは、否定的な感情を意識的に収めると定義されています。

 感情抑制・抑圧ともに、行動レベルでは、健康的な感情表現の代用として過食、過剰な睡眠、過剰な出費などの不健康な対処行動を誘発するとされ、生理学的レベルでは、ストレスに対する自律神経反応性が高いことなどが報告されています。

 つまり、神経内分泌の調節異常は、ストレス過程や習慣的な健康被害行動によって誘発されるにせよ、感情抑制・抑圧は多くの慢性疾患の進行やがん、ひいては早期の死に関与していることが示唆されています。

感情を表に出さない日本人は
心身ともに疲弊しやすい

 筆者の目からすると、日本人はあらゆる場面において感情抑制・抑圧傾向が、かなり強いように感じます。

 一方で、日本人のコミュニティサンプルでは、感情抑制・抑圧のレベルが低いほど健康状態が悪くなり、日本人のがん患者では、そのレベルが高いか低いかよりもむしろ中程度であるとの、研究データもあります。

「では、日本人の場合は感情を抑制・抑圧しても問題ないのでは」──と思われたでしょうか。

 残念ながら、それには賛同できません。

 私たち人間は、周りの承認がある程度必要な生き物であり、その社会のルールを重んじたほうが恩恵を受けやすくなります。

 つまり、日本社会の場合は、自分の感情を押し殺しても、周りと合わせるほうが、安心感にもつながり恩恵がもたらされるというわけです。

 日本での診療を通じて見ても、度を過ぎる感情抑制・抑圧はあちこちでほころびが出て、心身ともに疲弊するケースが少なくないようです。

 また、自分の感情を他者に開示したがらない人は、他者から共感的な反応を引き出しづらくなります。

 とはいっても、日本人にとっては「自分の感情を表に出す」というのは、なかなか難しいことでしょう。

 では、どうすればいいのでしょうか?

 感情表現は、基本的に対人的な活動です。

 ただ、他者とそこまで関わる自信がないときには、書く練習を通じて表現力を高めて、感情表現を改善することをすすめます。

 たとえば、相手に言えなかったことを、メモ帳に書いて発散してみるのも方法の一つです。

 感情を開示することによって、健康への重荷を軽減、または緩和する効果があります。