現役メガバンク行員が語る「銀行員のトホホな生態」写真はイメージです Photo:PIXTA

「もういらん、帰れ!」
ドS支店長の容赦ないコメント

 今からおよそ20年前のこと。

 私は豊橋駅前支店の取引先課に在籍し、主に中小企業の営業を担当していた。求められる実績は、企業向けの融資残高を増やすこと。もちろん、資産運用やデリバティブなどによる手数料収益もあるが、オフィスの壁に張り出される「営業担当者成績グラフ」で多くを占めるのは融資残高だった。

 大抵の支店では課長や課長代理がグラフを作図していたが、我が豊橋駅前支店では支店長自身が作図をしていた。全国に支店を構えるM銀行広しと言えど、支店長御自ら営業グラフを作図する支店はここぐらいだっただろう。

「ドS」という言葉が相応しい支店長は、昨年末に配り切れず残った今年のカレンダーを利用して、その裏面に棒グラフを書き出す。摩擦でキュキュッと擦れるマジックの音がオフィスに響くたびに、下を向きパソコンを見つめる同僚の表情がしかめっ面になる。

 ある日、同期の村田君のグラフに、支店長のコメントが赤マジックで書かれていた。

「いつまで寝てる?」
「もういらん。帰れ!」

 これはさすがにつらい。面と向かって怒鳴られたのであれば、ある意味諦めもつくのだが、こうして無言でやられると堪えるものだ。

 当時、私はどの支店に異動しても集金ばかり行かされていた。ただし、こうした担当者の手間は、取引先との紐帯(ちゅうたい)…2社を結ぶ大切なひもであり帯であった。

「おい、集金なんかで仕事してる気になってんじゃねーぞ!」

 口の悪い副支店長の怒号が飛ぶ。好きで集金などやっているわけではない。集金ばかりやらされている若手担当にとっては、わかりすぎるくらいわかっていることだ。

 出来の悪い担当者とみなされると、面倒な集金先をあてがわれるのが、銀行界の「あるある」になっていた。これに時間を費やされるものだから、ますます成果が上がらない。負の連鎖から抜け出せなくなる。

 ただ、集金をしていると取引先の動きがよく見えてくる。手形の金額や振り込み先などを実際に目にすると、社長や営業部長から聞く話の裏付けになる。思わぬ大発見さえある。イヤイヤやっていることも、視点や意識を変えてみれば、商売のネタに繋がることを学んだ。