再び部屋に招いた会長が
2000万円の両替を依頼
20年前に話を戻そう。翌朝、預金担当課の課長代理から内線電話が入る。
「目黒代理さあ、なんだよこれ?両替?面倒くせえなあ。今時こんなに聖徳太子持ってきやがってさあ。今回だけにしてくれよ。次はないからな」
「あ、あの、断れない会社なんですよ。なんとかひとつお願いします」
「しょうがねえなあ…まったく」
その日の夕方、1000万円の福沢諭吉紙幣を持参すると、また会長室に入るのを許された。山本部長は同席していなかった。会長は小声でつぶやいた。
「ありがとさん。あんたはうちにいつ来とるんかな?」
「は、はい、毎日、朝と晩には顔を出してます」
「ほうかい。こんことは言わんでおくれん。ごめんだよ」
そう話すと沈黙が続き、それ以上話は膨らまなかった。
翌週の木曜日。会長が経理室を覗きこみ、私を見つけるとまた手招きをした。会長室に入ると、今度は高島屋が2箱あった。先週と全く同様、ほこりとカビにまみれたバラの模様がしなびて見えた。
「開けてもいいですか?」
今度は包装紙を少し乱暴に破くと、聖徳太子の日銀券官封が2000万円出てきた。翌朝、再び課長代理からドヤされたのは言うまでもない。それから同じようなことが、かれこれ5~6回は続いただろうか。
「自分で断ってこい!責任取れ!」
私に指さして激怒する副支店長
ある日、本部のコンプライアンス部門から電話があった。受けたのは副支店長だった。不自然な現金の動きをモニタリング察知したという。そりゃあそうだろう。1億円近い旧紙幣を新紙幣に両替するなど、普通の取引でないことは明らかだ。
副支店長から内線電話が入る。
「目黒代理?今すぐ支店長室に来い」
ドアをノックすると、支店長、副支店長、課長の3人が応接ソファに座っている。副支店長が切り出した。
「どういうことだ?」
課長が、まるで通訳でもするかのように、すぐさま続ける。
「三坪紙業から、何を頼まれてる?」
「わ、私は会長から頼まれまして…」
「あんな古い金がたくさんあるなんて、おかしいと思わんのか?」
副支店長が私に指を差しながら怒鳴る。話し相手に向かって指を差すことは失礼にあたるが、銀行業界では上司が部下にこれをやる。これを「詰め指」と呼んでいる。
「ヤバい金なんだよ?言えない金、財産隠してるとか!『マルサの女』とかに出てくるヤツ!」
課長が副支店長のマネをして「詰め指」しながら、わかりやすく通訳して下さる。
「まずいな。このままだと巻き込まれるかも知れん。脱税ほう助とか言われたらたまらんな」
と、副支店長。
「お前なんか一緒に捕まって、クビだぞ、クビ。知らなかったとか済まされないからな!ろくすっぽ稼がない、集金しかやってないくせに、余計なことに巻き込まれて。仕事増やすなよ。自分で断ってこい!責任取れ!」