この手の「従業員テロ」が大炎上するのは日本も中国も変わらない。SNSには「気持ち悪い」「もう一生、青島ビールは飲みたくない」「中国の食品の安全性が改めて問われる事件だな」という批判から、「ライバル会社の妨害工作では」なんて陰謀論まで持ち上がり、大騒動になった。その後、地元当局はこの放尿男を行政勾留処分にして、青島ビールも謝罪に追い込まれた。

 さて、ここまで言えばもうおわかりだろう。

 もし今回の「靖国放尿テロ」に日本政府が大騒ぎをして、国際社会で注目を集めたら、国内外で起きている「放尿トラブル」も脚光を浴びる。そうなると、「中国人=あたり構わず放尿をする民族」というネガイメージが世界に広がってしまう恐れがあるのだ。

習主席が頭を抱える
中国人の放尿トラブル

 そう聞くと、「いやいや、確かに不名誉な話ではあるけれど、そんなことくらいで習近平に恩を売れないでしょう」と冷笑する人も多いだろうが、「中国人の放尿問題」をナメてはいけない。実は「中国人=あたり構わず放尿をする」というネガイメージは、習近平主席が今最も頭を痛めている「反中感情」に結びついて、「反中デモ」にまで発展してしまうことがわかっている。

 わかりやすいのは香港だ。現在は国家安全維持法などにより中国批判への取り締まりがかなり厳しくなったが、2019年の民主化デモのように、かつては「反中感情」が非常に大きな盛り上がりを見せた。「放尿」がそのトリガーになったこともある。

 2014年4月、繁華街で中国人観光客が、尿意を催した子どもに路上で立ちションをさせた。その様子を香港人が撮影した動画がネットで拡散して、「本土の連中はもう来ないでくれ」「文明レベルが違いすぎる」という反中感情に一気に火がついたのだ。しかも、話はそれで終わらない。それからほどなくしてあったメーデーの反中デモで、こんなシュプレヒコールが上がった。

「道路で大便、小便をするな!」(AERA 2014年6月9日)

 子どもの路上での立ちション動画ですら、香港人の「反中感情」がここまで高まったという事実がある。つまり、今回の「宗教施設に対する放尿テロ動画」も、やりようによっては国際的な反中運動を仕掛けることもできたのだ。