陰謀論、反LGBTQ運動、反ワクチン、ロシアの反リベラル思想、トランプ信者、白人至上主義、気候変動懐疑論…フェミニストで女優の母を持つジャーナリスト、ユリア・エブナー氏は、大衆化した過激主義の現状を、組織への潜入捜査で解き明かしてきた。日本で待望の新刊が発売する直前に、英国で独占インタビューを敢行した。【前後編の前編】(国際ジャーナリスト 大野和基)
ミイラ取りがミイラになりかけた…
女優の母を持つ「潜入の達人」が独占告白
――私は日本のカルトの1つである旧統一教会の内部を取材しようと実際に入信したジャーナリストを知っていますが、彼は最終的に洗脳されてしまいました。つまり、ミイラ取りがミイラになってしまったのです。あなたは、それに近い経験はありませんか。
正直に言うと、ありますよ。カルトは強力で社会的な絆を醸成します。潜入すると、あっという間にその絆の一部になるような気持ちになり、魅了されてしまいます。カリスマ性のある人物が必ずいて、もし彼らの政治的側面を知らなければ、すぐに親しくなってしまいます。
私の場合、Tradwives(トラッドワイフ、反フェミニストの女性数万人からなる世界的な極右ネットワーク)というコミュニティーに特に引かれました。彼女たちは、女性が直面する多くのフラストレーションや困難に取り組んでいます。子育てと仕事の二重の負担について話しているかと思えば、一方でTinder(出会い系アプリ)のような、quick datingについても活発に話しているのです。
Tradwivesで取り組んでいるのは、ごく普通の女性がパーソナルレベルで刺さるようなトピックばかりでした。個人の不満が集団のナラティブと結びつくと、cognitive opening(合点がいき、悟るような感じ)が起こります。それがきっかけになって、急進化することに全く抵抗がなくなってしまうのです。