自分からは話さず、「おうむ返し」を

 大宮駅の「駅弁屋旨囲門」に、
「駅弁の容器の後ろに穴があいていたぞ。腐っていて食べられなかったから代金を返せ」というクレーマーがきたことがありました。

「駅弁屋旨囲門」のスタッフから連絡をもらい、私はすぐにかけつけました。
 クレーマーは悪びれもせず、

「駅弁が腐っていて食べられなかったけれど、現物は捨ててしまった。レシートは持っていないけれど、1500円の弁当を2つ買ったから3000円を返せ」

 と言います。私は相手の発言をおうむ返しにしました。

「駅弁の容器に穴があいていて食べられなかったんだよ」
「穴があいていて食べられなかったんですね。それは申し訳ございませんでした。で、現物はどうされたんですか?」
「腐った弁当なんて持ち歩いているわけないだろう」
「そうですよね。腐ったものは持ち歩かないですよね、申し訳ございません。それではレシートはお持ちですか」

 おうむ返しをすれば会話の速度が遅くなり、相手のペースに巻き込まれることがありません。すると、

「レシートはもらわなかった。腐ったものを売っておいて、レシートがなかったら返さないのか」

 と言ってきたので、

「いえいえ。腐ったものを売ったなら、レシートをお持ちじゃなくても返金させていただきます。それにお客様がお持ちにならなかったレシートは1週間、お店のほうで保管してありますから大丈夫です。いま、お調べしますね」

と答えました。

とことん追求して「この店は手強い」と思わせる

 話が核心部分に突入すると、クレーマーは少し焦り始めます。
 レシートを調べられると困るので、

「いや、レシートはもらったけれど、捨てちゃったのかもしれない」

 と、あやふやなことを言い始めました。
 そんなクレーマーを見て、少し余裕が出ました。

「レシートを捨ててしまっても大丈夫ですよ。販売データが残っていますから、データのほうをお調べします。何時頃、どのお弁当をお求めいただきましたか」

 と追い打ちをかけます。
 クレーマーもあとに引けなかったのでしょう。
「時間がないからそんなに待つことはできない、商品の名前も忘れた」
 と言い始めました。

 ここまでくると、もう相手の負けは見えてきます。
 でも、そこで手を緩めてはいけません。
 とことん追求して「この店は手強い」と思わせなければ、またいつか同じことをするからです。そこで私はさらに、

「現物もなくて、レシートもない状態では、いくら責任者の私でもすぐに代金をお返しすることはできません。すぐにデータを調べますので、ちょっとお待ちいただけますか」

 と断り、商品の名前を忘れたのなら、売店に並んでいる商品を見て思い出してほしいとお願いしました。
 そもそもクレーマーは駅弁なんか買っていませんから、そう言われても商品を指差すことなんかできません。そこで私は、

「もう一度確認いたしますが、どんな容器に穴があいていたんですか」

 と尋ねました。
 するとクレーマーは苛立ちながら、

「プラスチックの容器の後ろに穴があいていたって言っているだろう。何度も言わせるな」

 と怒鳴りつけます。私は、

「それじゃあ、こちらの商品ですか?」

 と適当な駅弁を指差しました。クレーマーはホッとしたように、

「そうだ、これだよ。この駅弁を2つ買っていったんだ」

 と言います。

 それを聞いて私は少し余裕が出ました。そしてクレーマーに、

「そのお弁当は容器の後ろが厚紙になっているんですけれど。どんな穴があいていたんでしたっけ?」

 と、とどめを刺したのです。
 クレーマーは「もういいよ」と捨て台詞を残して去っていきました。

 こうした経験は体系化してすべてのスタッフと共有し、対応トレーニングも行っています。
 そうすることで、気持ちのうえでも逃げずに対応することができるようになってきたのです。

次回は4月25日更新予定です。


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三浦由紀江(みうら・ゆきえ)
JR東日本グループの株式会社日本レストランエンタプライズ(NRE、旧・日本食堂)弁当営業部上野営業支店前大宮営業所長。現・上野営業支店セールスアドバイザー。97年、44歳時にJR上野駅の駅弁販売を開始。当時の時給は800円。52歳で正社員となり、53歳時に異例の抜擢で大宮営業所長となる。就任1年目で駅弁売上を5000万円アップさせ、年商10億円超を達成。以降、所長就任4年で売上を1億1000万円アップさせる。大宮駅限定のカリスマ駅弁を20種産み出すかたわら、9人の社員と110名のパート・アルバイトを束ね、6店舗を切り盛りするカリスマ営業所長として活躍。NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」、TBS「応援!日本経済 がっちりマンデー!!」でも紹介された。