ファンドへの売却収入を
再投資する回転型ビジネスも

 車庫用地を再編して広大な用地を生み出した高輪ゲートウェイシティは例外中の例外で、主要ターミナルの再開発も一巡しつつある。そこで、駅の魅力向上を目的とした「駅づくり」から「駅を中心としたまちづくり」にシフトし、駅周辺部のオフィス・商業・ホテル・住宅などのマチナカの不動産取得・開発を推進する方針に転換した。

 JR東日本によれば、川崎駅付近の「KAWASAKI DELTA」や横浜駅付近の「JR横浜タワー」「JR横浜鶴屋町ビル」など、社有地の隣接用地を取得して開発した事例はあったが、新たに用地や物件を取得して開発した事例はないというから、大きな方針転換だ。

 駅を中心としたまちづくりの一環である以上、鉄道事業とのシナジー効果、同社グループのサービスとの連携を前提としているが、新幹線荷物輸送サービスと連携した物流施設など、沿線外の物件取得も選択肢に入るという。

 その上で最も注目すべきは、新会社が開発した不動産は、2021年設立のアセットマネジメント会社「JR東日本不動産投資顧問」の組成するファンドに売却し、売却資金を成長分野に再投資するという事業戦略だ。

 これまでJR東日本の不動産事業は、賃料収入で投資資金を回収する長期保有型モデルが中心だったが、成長戦略のスピードアップのため、物件の売却収入を再投資する回転型ビジネスモデルを取り入れる。

 収益性の高い物件だから自社保有するという考えもあれば、高い価値が付くときに売却する判断もある。長期保有を行わないわけではなく、両者を戦略的に使い分けていく方針だが、このようなスキームを構築した以上、売却が基本線になるようだ。

 JR東日本が強調するのは人口減少社会への危機感だ。これまでは、駅に施設を作れば放っておいても一定の人が集まってきたが、人口減少社会では不動産の価値、魅力をしっかり上げていかなければ人は来ない。そのためには速いペースで多数の物件を手掛け、腕を磨く必要があるとの考えだ。

 JR東日本が「非運輸事業の収益比率4割」を掲げたのは15年以上前のことだ。コロナ禍以降は目標を「5割」に引き上げたが、いまだに4割にも達していない。そのため事業の拡大が順調に進んでいないイメージを持たれることもあるが、日本最大の運輸業を持っているから見えにくいだけだ。

 2023年度の不動産セグメント営業収益を比較すると、阪急阪神ホールディングス3182億円、東急2865億円に対し、JR東日本は両社を大きく上回る4058億円。しかも2017年度から6年間で約800億円も増収している。

 鉄道グループとしては既に日本最大の規模を誇るJR東日本の不動産事業が今後、どのようにブラッシュアップされていくのか、マチナカへの進出が他事業者にどのような刺激を与えるのか、楽しみにしたい。