高校で家庭科教師に投資を学ぶ日本人が、欧米人との「金融リテラシー格差」を解消するたった一つの方法高校でも金融教育が始まったが、それは世界標準だろうか(写真はイメージです) Photo:PIXTA

家庭科教師にのしかかる
「投資教育」の負担

 高校生の子どもがいる人はご存じかもしれません。2022年から高校で投資を家庭科教師が教えています。文部科学省の新学習指導要領において、高校生に家庭科の授業で「資産形成」の視点を養わせるための金融教育の実施が規定されたためです。しかし、少しでも投資を経験していたなら、家庭科教師が投資をまともに教えられるとは思わないでしょう。

 もともと家庭科教師になるには、大学の教育学部のほか、家政学・生活科学・服飾学・栄養学などを扱う学部・学科で資格をとります。家庭科教師になるために勉強をしていた学生は、普段は服飾を学ぶため、手縫いの練習のような授業と、調理を中心に栄養学を学んでいます。いわば専門学校と似たような実技中心の授業なのです。教えている大学の先生も家庭科の教師から大学や大学院に行った人など、正直「投資」を正式に学んだ人がいるとは思えません。

 もちろん、そんな先生が学生に「投資」をきちんと教育できるとは思えません。私が勤務していた大学の学生や卒業生に聞いてみても、「投資の知識は教えてもらっていない」(4年生)、「株式や投資信託、債券などの収益性、流動性、安全性などについて、教採勉強や資料で見たぐらいです。詳しい指導は自信ないです」(4年生)という実情を告白していますし、「家庭科は、教材づくりなど時間を使うことが多く、服飾など変化の激しい時代に学ぶことも指導と共にやっていかなければならないので、投資にまで手がまわりません」(卒業生/現役家庭科教師)という声もあります。

 もともと家庭科には「家計管理」というカリキュラムがあったので、投資もその関連としたのが理由だそうですが、海外ではもっと真剣に「投資」を教える姿勢が見えます。たとえば米国では、小学校から小切手や複利について教えられ、高校ではクレジットカードの教育が義務化されています。英国でも小学校卒業までに投資教育を終えるほど熱心に取り組んでいます。ドイツには、高齢者から若者に直接伝えていく「退職準備学校」や「教師と生徒のための銀行・経済の学校」「貯蓄銀行学校サービス」などの制度があります。

 だいいち、家庭科の「家計管理」は節約してリスクを避けることを学ぶ授業なので、投資教育とは矛盾するのです。実際、あまりに付け焼き刃の状態を見かねて、金融庁の職員が高校の先生に対して勉強会を開催するような有り様です。