しかし現代の「軍事及び安全保障サービス」には、情報収集や分析等のインテリジェンス業務、サイバー空間における脅威からの防護というようなサイバーセキュリティ、偽情報やフェイクニュース拡散を含めた情報戦等の軍事や安全保障にかかわるソフトウェア、すなわち「非戦闘的活動」も多く含まれている。

 防衛大学校で教鞭をとられた佐野秀太郎氏は、『民間軍事警備会社の戦略的意義──米軍が追求する21世紀型軍隊』(芙蓉書房出版、2015年)の中で、PMSCsを「国家機関または非国家機関に対して軍事に関わるソフトウェア(非戦闘的活動)、またはソフトウェア及びハードウェア(兵器等の装備品の製造)の双方を、国外または国内外で提供する会社」と定義している。

 本書では、これに加えて「軍や諜報機関で培った専門的な知識や技能を使って民間で軍事や安全保障に関するサービスを提供している会社」と広範な定義を適用したい。言うまでもなく、現代においては「軍」と「民」の垣根がますます曖昧なものになっており、何が「軍事に関わる技術や知識」なのかを正確に定義することはもはや不可能となっている。そうした理由からも、はっきりと区別できない部分があることはお許しいただきたい。

 また、名称についてはメディアで広く一般的に使用されている「民間軍事会社(PMC)」を使う。「民間警備会社」と明確に線引きをしたいからである。

民間軍事会社が活躍するケース
法と秩序が失われた「有事」

 では、民間軍事会社と呼ばれる会社が提供している具体的な業務内容を見ていこう。

 まず代表的なものとして挙げられるのが政府向けの業務だ。具体的には政府の施設、大使館や領事館をはじめとする在外公館や軍事基地等の警備である。日本では民間警備会社がこうした政府関係施設の警備業務を提供している。日本だけでなく多くの国々においても、その国に置かれる外国の公館の警備を提供するのは、通常各国の民間の警備会社である。民間警備会社とは、前述した通り、その国の法律の下で「警備事業」を提供することを認められた会社のことである。