このため戦後のイラクでは、米国をはじめ多くの外国政府が、イラク国内で活動する際に、公館の警備や外交官の警護のために「民間軍事会社」を雇ったのだった。イラク政府が機能せず、米国が占領統治を開始するという無法状態の中で、外国政府の施設や外交官たちの身の安全を守るために、主に欧米諸国の元軍人たちから構成される民間軍事会社に声が掛かったのである。

敵に合わせて武装を強化
平時は警備業務を行う会社も

 前述したように民間軍事会社を規制する法律は存在しないため、彼らの任務や役割を規定するのは、彼らを雇う政府機関との契約書だけである。また、戦後の混乱期であったため、民間軍事会社は、クライアントと自身を守るために必要だと思われる武器を自分たちで調達して警備業務を提供しなければならなかった。

 当然、平時における民間警備会社が警備業務のために使うことが許される武器は、その国の法律で厳しく規定されているが、有事の無法状態であれば、警備のために使う武器のレベルを決めるのは「敵=脅威」の能力だけである。クライアントを襲う可能性のあるテロリストが自動小銃を持っていれば、警備する民間軍事会社の側も自動小銃で武装する必要が出てくる。また反政府武装勢力が爆弾による攻撃を仕掛けてくるのであれば、そうした爆弾からクライアントを守ることが出来る特殊な防弾車両を導入する必要がある。

 脅威の主体が反政府ゲリラや民兵というような軍事的な能力を備えた勢力であれば、警備する民間軍事会社も軍事的な能力を備えた元軍人たちでなければ務まらないだろう。

 法と秩序が失われた状況下で警備や警護業務を提供すること、すなわち有事における警備や警護が、民間軍事会社の業務の一つである理由がお分かりいただけただろうか。

 ちなみに、平時においては通常の民間警備業務を行い、法と秩序が失われた紛争地や紛争後の国々においては「特殊警備=民間軍事業務」を、同じ会社が提供しているケースもある。彼らは自社のことを「民間警備会社」だと位置づけている場合が多く、こうしたことが「民間軍事会社」の定義を分かりにくくしている理由の一つでもある。