しかし、国が内戦状態になっていたり、紛争後でその国の政府の統治能力が低下していたりする場合はどうだろうか?

 内戦で政府機能がなくなる、もしくはその国の統治能力が著しく低下している状態とは、その国に存在する法律を政府が執行する能力が落ちていることを意味する。

 もしある国で政府が反政府勢力と内戦状態にあるとすれば、おそらくその政府は軍や警察を総動員して反政府勢力と戦っているはずである。もしくは軍や警察も、政府側と反政府側に分裂して戦っているかもしれない。いずれにしても、そのような状態にある場合、軍が治安維持業務にあたったり、警察も一般市民による犯罪を取り締まっている余裕はなくなるだろう。つまり、政府の「統治能力」がなくなるということは、その国の法律が機能していない状態を指す場合が多い。

 2003年のイラク戦争直後のイラクはまさにそのような状態だった。米国がイラクに軍事侵攻し、サダム・フセイン政権を打倒し、イラクの政府は一夜にして消えてしまった。それまでのイラクは、強力な警察国家として国民を監視下に置いていたが、その政府がなくなり、国民を取り締まる警察が消えてしまったため、国中で激しい略奪行為が発生した。

 大規模災害等が起きて政府機能が一時的に低下すると、どさくさに紛れて略奪行為が発生するのも同様の原理である。

 犯罪行為を取り締まる法律を執行する治安機関が機能していない場合、当然ながら犯罪に対する抑止効果が低下するので犯罪が横行し、市民たちは非常に危険な環境での生活を強いられる。2003年から2006年頃までのイラクはまさにそのような状態だった。

 そのような状況下でも、外国政府が大使館や領事館等の公館を開設する、もしくは軍が基地を置く等して活動を展開する場合、その国の民間警備会社に警備を任せることが出来るだろうか?

 政府でさえ機能しなくなっているのだから、民間企業はさらに困難な状況に置かれていることが予想される。また警備会社は、その国の法律の下、法律で許された業務のみ行うが、このようないわば無法状態になった場合、警備会社の能力では不十分である場合が多い。

 警備会社とはつまり、平時において法律が機能している時であれば、法律で許された範囲の警備業務をクライアントに提供することが出来るが、有事や非常事態、法律が適切に執行されていない中では通常のような活動をすることが難しくなる。