自宅でねぼけまなこの生徒に
「起きなさい、学校に行きましょう」

 Aくんの欠席が3日目になり、登校拒否と判断した福井先生は、すぐさまこの特効薬を処方しにいきました。Aくんの自宅をいきなり訪ねたのです。

 ご両親は共働きで、玄関の鍵は閉まっている。それでも、家のなかにAくんがいることは気配から分かる。かといって、どんどんとドアを叩けば、Aくんを刺激してしまう。さて、どうしたか?

 なんと福井先生は雨どいを伝って2階のベランダの窓を開け“訪問”に成功したのです。Aくんは部屋のなかでスヤスヤと眠っていました。

「Aくん、起きなさい」

 軽く揺さぶられて目を覚ましたAくんの視界に入ってきたのは……。

「……あ!福井先生!」

「学校へ行くから支度しましょう」

 そして、Aくんに抵抗するヒマを与えず、学生服を着させると、そのまま学校へ連れていくことに見事成功したのです。

 特効薬というだけに効き目は抜群で、翌日になると病はどこへやら「やっぱり学校は毎日来ないとあかんで」とクラスメートにとくとくと語っていたAくんは、なんとその日以来、卒業まで皆勤賞でした。

 Aくんをはじめ、1期生の原石たちはユニークな子たちばかり。でも、打てば響くような頭の冴えがありました。最後の1年間、教員たちは彼らを徹底的に磨く作業をし、またその他の生徒たちも希望の大学に進学させるべく、望めば何時まででも付き合いました。

 受験対策にも腐心しましたが、3年間を通じて教員全員が力を注いだのは「彼らをいかに本気にさせるか」でした。

 有名私大や国公立なんて自分には関係ない世界。それどころか、大学へ行くことさえ考えられない。そんな生徒たちに、大学進学という進路があること、真剣に挑めばその扉は開くということを、リアルに実感してもらうのは本当に大変なことなのです。

 でも、「そうか、自分もその道があったのか」とひとたび本気になれば、もともと可能性を秘めた子たちだけに、そこから一気に伸びていきます。

 生徒も教員も全力で走り続けた3年間。

 そして、1期生たちは大学受験という最後の戦いに挑みました。