「単純にテストの成績がよくても、原石とは限らないですよ。磨けば光る子の特徴は、やっぱり頭の回転です。聞き取れないような早口で私が授業を進めても、なかにはすぐ理解してしまう子がいる。そういう子は原石の可能性が高いですね」

 そんな福井先生が早くから目をつけていたのが、1期生のAくんです。

 中学時代のAくんは、年間3分の2くらいは学校を休んでしまう登校拒否、今で言う不登校生でした。不登校という定義に改められるのはこのときから10年ほどあとのことなので、ここでは登校拒否のままにしておきます。

 Aくんは入学試験の結果も特によいわけではなく、知識にも乏しい。ところが、教え始めて1週間ほどで「この子は勉強してこなかっただけで、能力は高い」と福井先生は気づきました。ポイントは、やはり回転力です。

 集中的に回転力を上げるトレーニングをほどこしてみたところ、案の定、メキメキと頭角を現し、入学時の定期テストでは100番~200番台だったのが、いきなりトップに躍り出たのです。

 しかし2年の秋口になってAくんは突然、学校に来なくなってしまいました。登校拒否の悪い癖が、また出てしまったようです。普通なら慌てて親御さんに連絡を取るところですが、福井先生は平然とした顔で、こう言いました。

「親に連絡なんて一番いけませんよ。登校拒否の子の気持ちは私なりに分かっているつもりです。私も登校拒否になったことがありますからね」

 福井先生の登校拒否は、子ども時代ではなく教員になってからだそうです。

「新任1年目に、いきなり問題児ばかりのクラスを任されましてね。そのクラスでの授業が週4回あったけれども、その日はどうしても頭が痛くて朝起きられませんでした。だから登校拒否の生徒は決して仮病ではない。ほんとうに頭が痛くて起きれないんです」

 子どもがその病に伏せっているときは、「とにかくまわりが騒がないこと」が一番。「なぜ来ないのか」としつこく聞いたり、親に相談して大ごとにするのは逆効果。連れてくる場合は前触れなく自宅へ行って、しゃべらず、粛々と、機械的に登校の準備をする。それが、実体験から導き出された福井先生の特効薬です。