デジタルに詳しい若手ほど、会社に失望する

 こういった事態に陥ってしまったのは「デジタルトランスフォーメーション」という甘美な言葉が一人歩きしてしまったからにほかなりません。各マネージャーがこの言葉に踊らされ、テクノロジーを導入しようと「独自のDX」を推し進めていたのです。ですが、目的が「デジタルの導入」に変わってしまった組織は、コストは増えても生産性が向上することはありません。

 加えて、マネージャー層よりも若手社員のほうがデジタルには強いという逆転現象が起き、マネージャーが間違えた方向に推し進めるほど、若手社員は「意味があるのか」と戸惑う悲しい事態が起きていました。

 このようなことから私が感じていたことは、結局のところ「自分の事業部の最適化さえ考えればいいとする会社の文化を変えなければいけない」ということでした。逆を言えば、そういった企業文化さえ変わればDXは間違いなく成功すると思いました。

 つまり、結論を言えば、当時の味の素はDXを通じて、企業文化・風土の変革に成功したのだと私は感じています。

 私はCDOになってから、多くの方からDXについて話を聞かせてほしいと言われることが非常に多くなりました。そこで、「DXを成功させる秘訣はなんですか?」と聞かれる度に「デジタルうんぬんの前に会社の風土を変えることです」と答えています。そのくらい、DXでは企業の内側にある文化から変えていくことが重要なのです。

 社員は疲弊し、成果は出ない。これは最悪の結果です。今すぐ変えていくべきでしょう。