日本最大級の食品メーカー「味の素」。その名を知らない人はいないだろう。そんな味の素は近年企業としても急成長を見せ、まさに日本を牽引する大企業になっている。しかし、そんな味の素も常に順風満帆だったわけではない。数年前までは株価、PBRともに停滞し、企業として危機に瀕していた。そんな味の素がなぜ生まれ変わったのか、「味の素大変革」の立役者である味の素・元代表取締役副社長の福士博司氏による企業変革の教科書会社を変えるということ』がこの春発刊された。本記事では意識改革を基盤に会社の株価、PBRなどを3年で数倍にした福士氏の考え方を本文から抜粋・再編集するかたちでお届けする。

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「モチベーションが湧かない職場」と「自然とやる気が出てくる職場」の差

 過去の成功が必ずしも今日と明日の成功を保証しない今日の経営環境下では、いくつもの日本の大企業がこの数年で活力を失い、極端なケースでは経営破綻に追い込まれました。

 自分たちは幸せだ、自分たちだけは大丈夫と「自分の立場が脅かされないこと」を願っていた社員や経営者は立場どころか、働く職場や会社を丸ごと失っていきました。しかも、自分たちが「ゆるい体質」であったことに気がつかぬままにです。

 すなわち、今日では、個人や組織にとっても、経営にとっても、現状維持は衰退の入口に立っていることとまったく同じで、経営は常に新たな成長を目指すべきなのです。

 新たな成長を実現するためには、経営資源を投入しなければなりませんが、近年では、人的資源である人財への投資が重要視されています。人的資源への注力と言うと、すぐに、教育時間、採用、登用の費用などを想起される方が多いと思いますが、私は経営が人財に投入すべき最大の資源は、「夢」とも言える成長ビジョンであるべきだと思います。

 経営にとっての成長とは、経営数値の将来的な拡大を意味しますが、個人にとっての成長とは仕事を通じての「夢」の実現にほかなりません。

 それは、言い換えると「自分の夢の実現のために、必要な能力が獲得できていることの実感」であり、「自分たちがさらに幸せになること」=「自分たちがさらに成長していること」なのです。