「50代後半から2~3年だけ社長を務めて終わり」というサラリーマン経営者が悪である。
そう語るのは、これまで4300社以上の導入実績がある組織コンサルタントである株式会社識学の代表取締役社長・安藤広大氏だ。「会社員人生が変わった」「もう誰も言ってくれないことがここに書いてある」と話題の著書『リーダーの仮面』では、メンバーの模範として働きつつ、部下の育成や業務管理などで悩むリーダーたちに「判断軸」を授けている。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、注目のマネジメントスキルを解説する。(構成/ダイヤモンド社・種岡 健)

「50代後半から2~3年だけ社長を務めて終わり」というサラリーマン経営者が悪である理由Photo: Adobe Stock

「全員が頭を使う」が理想

 私もかつては、感情を前面に出して、背中で引っ張っていくタイプのマネジャーでした。

 リーダー自身が率先して現場に行き、部下の誰よりも結果を残し、見本になる。それを部下が見てついてくるはずだ。そう考えるタイプのリーダーでした。
「仕組み」ではなく「感情」でなんとか引っ張っていたのです。

 しかし、いま振り返ってみると、私の組織運営はまったくうまくいっていませんでした。
 私個人のプレーヤーとしての能力は上がっていましたが、部下を育てることができていなかったのです

 背中で見せるリーダーの下では、部下は育ちません。つねに上司が入らないと案件が動かない。
 下の人間はルーティンをこなすだけで、1人1人が頭を使わない状況になります。

 頭を使う部分を上司がやってしまうからです。部下が自分で頭を使うべき「プロセス」に上司が口を出してしまっていたのです

「社員の人生」に責任をもつ

 経営者は「社員の人生」に対して責任があります。
 経営者は、会社を成長させることで会社の「社会性」を高め、会社の「利益」を増やし、それを社員に分配することでその責務を果たします。

 ただしそれは「当面の責務」であり、もうひとつ大切な責任があります。

 それは、「稼ぐ力を身につけさせてあげる」ということです
 経営者は、この先もずっと社員と一緒にいるとは限りません。

 いつも隣で手取り足取りサポートできるわけでもないし、自分が先に辞めるかもしれない。
 社員が先に会社を辞めるかもしれません。
 経営者としてずっと社員の隣にいられるわけではないのです

 それなのに親鳥がヒナにエサを運ぶようなことをしていては、親鳥がいざ離れたときにヒナは生きていけません。
 必ず「独り立ち」させなければならない

 だからこそ、社員には「生き抜く力」を身につけさせてあげることが重要なのです。

トップは逃げ切ろうとするな

 立場が上になっていくと、より長期的な視点に立たなければいけません。

 しかし、日本の大企業では、上の階層の人たちが逃げ切ろうとしている傾向があります。

 雇われ社長だと、「50代後半に2~3年だけ社長を務めて終わり」ということがわかっているので、それが問題であることも多くあります。
 特に大企業を回っていると、そうした状況をよく目にします。

 創業者であれば、未来永劫、「自分たちが生み出す価値を残し続けたい」と思うはずですが、組織が大きくなればなるほど、その意志は見えにくくなってしまいます
 そういった経営者が、現場の社員をダメにしていくのです。逃げ切ろうとするのは、「悪」でしかない。

 これを読んでいるリーダーには、ぜひ、未来への視点を持ち続けてほしいと願っています
 半年後、1年後、自分たちの課が成果を上げるために、自分や部下が成長するために、何が正しいのか。

 自分が与えられた位置でどういう成果を上げられるかに集中すべきなのです。

(本稿は、『リーダーの仮面』より一部を抜粋・編集したものです)

安藤広大(あんどう・こうだい)
株式会社識学 代表取締役社長
1979年、大阪府生まれ。早稲田大学卒業後、株式会社NTTドコモ、ジェイコムホールディングス株式会社(現:ライク株式会社)を経て、ジェイコム株式会社にて取締役営業副本部長を歴任。2013年、「識学」という考え方に出会い独立。識学講師として、数々の企業の業績アップに貢献。2015年、識学を1日でも早く社会に広めるために、株式会社識学を設立。人と会社を成長させるマネジメント方法として、口コミで広がる。2019年、創業からわずか3年11ヵ月でマザーズ上場を果たす。2024年7月現在、約4300社の導入実績がある。主な著書にシリーズ累計140万部を突破した『リーダーの仮面』『数値化の鬼』『とにかく仕組み化』(いずれもダイヤモンド社)がある。