『失敗の本質』に当てはめるとわかる
岸田政権「支持率急落」の必然性

 旧日本軍の行動を分析し、日本人組織の欠点を突き詰めた名著『失敗の本質』を読めば、その失敗の原因は手にとるようにわかります。

 たとえば、目的を明確化せず、複数の目的を持たせて成果が中途半場に終わるという日本軍の行動パターンは、マイナンバーカード導入の目的を保険証や年金受給へと無作為に広げていく岸田政権の政策と似ています。戦力の逐次投入も日本人の欠陥とされていますが、物価政策を見れば、突然8月に夏の電気代やガソリン代の追加軽減策を発表(誰にも相談せず決めたといわれています)。異次元の少子化対策と銘打った目玉政策も、これではとても少子化は止められないといういわば兵力の逐次投入に近い、税金の逐次投入言えます。

 能登半島地震は、発生後半年たってもまだ断水家庭があるというていたらく。当時から議論されている万博延期ができなかった決断は、今になって関西経済界からも文句が出始め、さらに建設が間に合わないパビリオンまで続出しそうです。

 とうとう共同通信の調査では、「岸田総理に再選してほしい」人は10%に。今や岸田首相の総裁選立候補は、東京都知事選挙での小池都知事当選にすがるしかなくなってしまいました。

 核廃絶を政治信条とする岸田氏にとって、今回のウクライナ・イスラエル問題は、国連安保理常任理事国が反対すれば国連軍が結成できないという今の国連を改革する大きなチャンスになったはずです。国連は英語ではユナイテッド・テステイツ、つまり連合国です。元敗戦国の日本やドイツの発言力は弱く、連合国が主導する現状の国際政治をリードできない状態であることは誰もが認識しています。日本は宗教的にも中立的な国であり、グローバル・サウスなどの意見を集めて新しい国際秩序をつくり得た立場だったのに、岸田政権は何もできないで終わろうといています。

 ここまでの状況になった今、野党にも自民党内部にも言わなければならないことがあります。それは、なぜ自民党を脱党して野党と政権を作ろうとする若手議員がいないのかということです。野党も野党です。政権交替を望む国民がこれだけいるのに、影の内閣や野党統一首相候補を考える気配さえありません。

 また、今後の日本経済や外交問題に関して、目を見張らせる政策も打ち出せていません。米国は、太平洋戦争開戦100日で対日勝利のための戦略を全てチェンジすることができました。野党にはなぜそれができないのか。

 そして、政治が悪いのは結局選んだ国民が悪いことも忘れてはいけません。今からでも遅くはありません。国民は責任感を持って投票に行き、政治のことをもう少し真剣に考えるべきです。そうしないと、この激動の時期を生き抜けないでしょう。

(元週刊文春・月刊文芸春秋編集長 木俣正剛)