「割り算」を使った伝え方を説明するときに、いつも紹介する事例があります。

「今までに売れたiPhoneは400万台。400万台を200日で割ると、1日平均2万台売れたことになる。すごいねぇ」(スティーブ・ジョブズ)

 故スティーブ・ジョブズ氏は(私の主観も入りますが)言葉が極めて少ないプレゼンターでもありました。そんな氏が、なぜ短いプレゼンの中でわざわざ割り算をし、同じことを言い換えて伝えているのでしょうか。

 あくまで私の解釈ですが、答えは「モノサシ」にあると考えます。

 400万台。それがどれくらいすごいことなのか、一般の消費者にはどうもピンとこないでしょう。

 つまり、プレゼンを聞く側が持っているモノサシに合っていないのです。だからそのモノサシに合った数字に変換し、同じことを「1日平均2万台」という違う数字で伝え直しているのではないでしょうか。

 このエッセンスは、身の周りでもよく使われています。

 たとえば、厚生労働省が公表した2023年の人口動態統計によれば、この年の婚姻件数は49万9281組、離婚件数は18万7798組です。

 もし離婚件数の多さを主張したければ、「約3組に1組が離婚」という一度は聞いたかもしれない表現が思い浮かぶでしょう。こちらのほうが「そういうことね」と感じやすいはずです。

・レモン1個分のビタミンC
・スプーン1杯分の砂糖
・5秒に1個売れている人気商品
・従業員1人あたりの年間利益がわずか3万円の会社

 私たちが頻繁に耳にするこれらの表現も、すべて伝えたい相手のモノサシに合わせて変換された数字です。このように言葉を相手に合わせて変換できるようになると、たとえば先月の営業利益が1800万円という事実も図のようにさまざまな形で伝えられるようになります。

図表:「先月の営業利益1800万円」の変換例同書より転載 拡大画像表示

 相手によってどの数字に変換して伝え直すか。腕が試されるポイントです。ぜひ実践してみてください。上司が「ああ、そういうことね」と反応したら、その伝え方は成功だったということです。