外国人に媚びてテーマパーク化したら
たちまち京都の魅力は失われる

 話は変わるが、私は大阪と京都に深い縁がある。大阪には、留学生として大学に通っていた1980年代に住んでいた。大学のビジネスのクラスのプロジェクトとして、日本のお店でアルバイトをして日記を付けると決めた。心斎橋にあるアメリカ村の炉端焼き屋でバイトしたのは思い出深い。当時は私のように日本語ができる外国人が多くなかったので、ちょっとした名物店員になったのを覚えている。

 あの頃に比べると外国人観光客の数は増えたが、大阪の雰囲気自体は変わっていない。ごちゃごちゃしていて、大阪弁の呼び込みや、いろんな言語が飛び交って、とにかくにぎやかだ。しかし不思議なことに、道頓堀のような繁華街から少し離れると、別世界のように落ち着いた街並みが現れる。バイトを終えて枚方市のアパートに帰宅すると、虫の声が聞こえるくらい静かで、窓を開けて夏の夜の風を楽しんだものだ。

 日本人にとっては当たり前のことかもしれないが、このように小刻みに面白い変化がある街というのは、日本くらいだと思う。大阪では、ざわめきを求めれば繁華街に出ればいいし、ちょっと静かに過ごしたいと思ったら、少し移動すればいい。どちらにしても、安心安全だ。23年、英誌エコノミストが調査した「世界の住みやすい都市ランキング」で大阪がアジアの都市で唯一、10位にランクインしたのも納得できる。

 京都には、電子部品メーカー・ロームの社外取締役を務めている関係で、月に1度は通っている。美しい寺社や文化財の数々は当然素晴らしいのだが、私が特に好きなのは、京都の人たちの独自の雰囲気やプライドだ。今や、街を歩けば外国人の方が多い状況なのに、「京都の良さは京都の人にしか分からない」と、あえて敷居を高くしているようなところがある。

 これには良い面も悪い面もあるだろうが、それくらいの軸を持っていないと、あれだけの数の旅行者に圧倒されてしまうだろう。外国人に媚びてテーマパーク化してしまったら、たちまち京都の魅力は失われてしまう。敷居の高さにぶち当たって苦労することも確かにあるが、そういうしっかりした軸を持っている点を、私は非常に評価している。

 こうした特徴は、京都の企業にも当てはまるように思う。ロームにしても、京セラや村田製作所にしてもそうだが、京都には独立系の企業が多い。“スーパー経営者”が自力で道を切り開いてきた流れがあり、社員ひとりひとりが自社の文化を理解して、守っていこうという気持ちが強いように感じる。だから、どこか威厳があって、「親しき仲にも礼儀あり」という厳しさもある。コンサルタント的な立場としては難しい面もあるのだが、彼らの姿勢には学ぶべき点が多いと感じている。

 後編では、日本の地方に潜む大きなビジネスチャンスについて考えてみたい。

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