「ネコの視点チェック」で
心の満足度がわかる

 やっていると夢中になり、そのプロセスで自分が幸せを感じ、さらには、まわりの人の手助けにもなる。それが幸福な人生であり、幸せな人だという思いから、私は医師として、それが見つけられるようにサポートをしてきました。努力して自分が少しずつ進歩する楽しさ、喜びを見つける。その手伝いをするのが、医師やカウンセラーであり、ひいては学校の先生や親でもあると思います。

 私が小学生時代、今でいう注意欠陥多動性障害(ADHD)の同級生がいました。教室で騒いだり暴れたりするため、まわりは皆、怖がっていました。

 3年生のとき、50代の女性が担任の先生になりました。先生は、皆と一緒にその子を近くの貝塚に連れて行きました。そのとき、一生懸命に土いじりをしていた彼は、土のなかから縄文式の土器を見つけたのです。そこから次々と見つけ出して、それがその地方の博物館に展示されることになりました。

 その後、彼は発掘を学べる学校に進学しました。その先生でなかったら、彼は落ちこぼれたままだったかもしれません。自分が熱中できて、努力するのが楽しいものを見つける。そうすれば、人生は豊かになります。

 生活のなかで「しなければいけないこと」と「したいからすること」の割合をチェックしてみてください。私はこれを「ネコの視点チェック」と名付けているのですが、後者の割合が高いほど、心の満足度が高いと考えています。

書影『幸福力――幸せを生み出す方法』(潮文庫)『幸福力――幸せを生み出す方法』(潮文庫)
海原純子 著

 ネコは「しなければいけない」とか、この人に会うと得だとか考えずにしたいことをする。でも、人間はそうはいきません。生活するためには、しなければならないことがあります。しかし、人生のなかにほんの少し「努力が楽しい」「お金にならなくてもしたい」ことが増えると心が豊かになります。

 歳をとる良さは、若いころは「しなくてはいけないこと」だったことが、少しずつ好きになり、そこに楽しみを見つけられるようになることかもしれません。

 私は若いころは、研究や文献調べを義務としか感じられませんでしたが、今は研究が大好きになりました。「したいからすること」が増え、「ネコの視点」の比率が高まっていることに、ひそかに喜びを感じているのです。