落合 でも実際、人類のIQはどんどん下がっているかもしれない。そういう未来を描いた『26世紀青年』(*7)という映画も先生が紹介されていたので本編を全部見ましたけど、ポピュリズム感があってすごく面白かったです。

暦本 一方、『オートメーション・バカ』のほうは、自動機械に人間が頼ってしまうと知的能力が減退するという話。もちろん諸説ある話ではあるんですが、人類のIQが低下しているといわれると、納得できるところもあるわけです。

 というのも、サルから進化してサバンナで暮らし始めたヒトは、かなり賢かったはずなんですよ。そうじゃないと生き残れなかったから。何から何まで自分たちで考えて行動しないと、食糧は手に入らないし、外敵から身を守ることもできない。現在でも、アフリカなどで狩猟採集生活をしている人たちは、たとえば獣の足跡を見て、その動物の種類や向かった方角なんかをそこから読み取りながら、狩りの計画を立てたりするわけです。

落合 たしかに、社会的インフラに知識を蓄積できない場合、個々の人間が大量の知識を持つ必要がありますよね。その知識に基づいて推論するだけの思考力もなければいけない。

暦本 でも文明化された現代社会では、そういう頭の良さが生存のために不可欠かというと、必ずしもそうではないわけです。

 分業が進んでいるからひとりで何でもかんでも知っている必要はないし、テクノロジーの発達で機械のサポートも受けられるから、原始人よりも知的能力や身体能力が低くても生きていける環境になっているんですね。だから、IQテストで測れるような能力が低下していても不思議ではない。

IQテストは
本当にオワコンなのか

落合 あのポストに対するXでの反応はどんな感じだったんですか?

暦本 「絶対にそんなことはない!」という人たちがいる一方で、「やっぱりそうか」とか「たしかに最近みんなバカになっていると薄々感じていた」みたいな反応も多かったですね。みんな、ネット検索に頼ってばかりで、自分の頭でいろいろなことを覚えていられないじゃないですか。そういう自覚もあるんだろうと思います。多くの部分を機械に依存しているので、自分の知的なパフォーマンスが人間としての裸の知能だけによるものではないと感じているんでしょうね。