住友ファーマの救済に三井住友銀行も住友商事も乗り出さない理由写真:医薬経済社
*本記事は医薬経済ONLINEからの転載です。

 これはさて、「猫もまたぐ」と言うべきか、「犬も食わない」と言うべきか……。2期連続の営業赤字に陥り、業績の回復どころか会社の存続にすら黄色信号が灯っている住友ファーマに対して、業界関係者が共通して示す姿勢である。同社に51.76%を出資する住友化学が共倒れだけは避けようと、水面下で、住友ファーマの売却交渉に乗り出していることは周知のとおりだ。しかし、欲深い投資ファンドなども“抱き着かれ心中”の恐れが否定できないとあって、二の足を踏んでいる。

 そうこうしているうちに、住友ファーマ自身のほうは、昨年2月に米国での特許が切れた抗精神病薬「ラツーダ」の売上高蒸発のショックが会社の隅々にまで及んできているようで、目下、沈む船を見捨てるネズミのように退職者が相次いでいると聞く。実際、財務の劣化は著しい。24年3月期末の有利子負債は前年同期末より841億円増の4188億円と年商を上回り、逆に現預金は1144億円減って290億円にまで減少した。自己資本比率は「危険水域」と目される20%以下に該当する17.2%へと、わずか1年で半減してしまった。こういう数字を突き付けられては、確かに無理もない行動であろう。

 先行きに不安を感じているのは一般の投資家も変わらない。過去に3700円台を付けたことがあった同社の株価は、24年3月期業績見通しの大幅な下方修正を行った1月末直後から300円台に急落し、5月30日には279円の年初来安値を更新した。証券各社が「売り」を推奨するなか、足元は、住友サイドの「次の一手」を待ち受けるかたちで350円付近を漂っている。

 旧別子銅山(愛媛県)の経営を祖とする住友グループは、戦後長らく、「人の三井」「組織の三菱」に対して「結束の住友」と称されてきた。三井や三菱に規模で劣る分、少数精鋭に徹してライバルに伍して行く姿勢が特徴とされた。とくにそれが顕著であった住友銀行(現、三井住友銀行)をして、「八人野球、三人麻雀で戦う」と言わしめたことは広く知られている。結束力は直面した危機が大きいほど発揮された。

 松本清張の長編小説『空の城』の題材となった77年の安宅産業の破綻劇がその際たるものだろう。詳細は省くが、メインバンクだった住銀が中心となり、時の政府や日本銀行を巻き込んで、この総合商社がしでかした表向きには北米石油投資の失敗が、本質的には長年にわたる粉飾と放漫経営の膿が日本経済全体に悪影響を及ぼすのを阻止した。安宅産業本体に対しても、やはり住銀の主導によって事業ごとの腑分けが行われ、鉄鋼や機械といった優良部門は伊藤忠商事に、繊維部門は住銀の商社部隊と呼ばれた伊藤萬(現、日鉄物産)にそれぞれ吸収された。