MMTじゃいけないの?

 それでもなお、借金でお金をまわせばいいんじゃないか、という気持ちはみなさんのなかに残るかもしれません。この発想に立てば、ベーシックインカムの財源問題も解消されますからね。

「現代貨幣理論(Modern Monetary Theory:MMT)」によると、自分の国の通貨なら、いくら借金をしても問題はなく、財政は破たんしないと言われています。財政が破たんしないのであれば支出は好きなだけ増やせますし、仮にインフレになっても、そのときに増税して、物価の上昇をおさえればすむだけの話です。

 増税はせず、借金で財政を思いきってまわしていくというアイデアは、一見、よさそうな感じがしますよね。でも、1990年代を見ればわかるように、空前のスケールで所得税の減税と公共投資を繰りかえした結果、残されたのは、先進国最大の政府債務とデフレ経済でした。財政だけではもちこたえられないほど日本経済は弱っているのです。

 この経験に学ぶのであれば、論理的に考えると、平成元年に266兆円だった政府債務残高が平成の終わりには1100兆円をこえたわけですから、それをはるかにしのぐ財政出動が必要になるはずです。

 思いきった議論をしましょう。みんなに毎年100万円ずつ配れば、消費は増えるでしょう。その結果、日本経済はデフレから脱却できるでしょう。ですが、同時に円が市場にあふれかえり、はげしいインフレが起きるにちがいありません。デフレからの脱却は、大幅な物価上昇を意味する危険性が高いです。

 いや、おそらくもっと話はシンプルです。MMTを主張する党が政権を取ったとします。それだけで円の価値は大きく下がり、何もしてないのに輸入品の価格があがってインフレになるでしょう。イギリスのリズ・トラス首相が所得税の減税を主張しただけでポンドが大暴落し、わずか45日で辞職に追いこまれたことを思いだせばわかるはずです。

 目先では増税せずにすむかもしれません。でもいずれ、インフレというかたちで、モノの値段があがるという「見えない税」が発生します。あるいは、インフレを税でおさえこもうとすれば、相当、大規模な増税が必要となる覚悟が必要です。

 それは、僕が議論したような話しあい、受益の結果としての増税ではありません。よくてだれかの先食いの後ばらい、下手をすれば見かえりのない取られっぱなしの増税です。

 なぜ、そのようなリスクを負ってまで、極端な借金依存の財政をつくらなければいけないのでしょうか。僕には、正直、わかりません。

 学問的にいえば、MMTは論争のさなかにあり、正しい理論なのか、まちがった理論なのか、まだ答えは出ていません。ですから、学者や評論家がMMTそのものを論じることに違和感はありません。

 ですが、うまくいくかもしれないけれど、大変なことになるかもしれない、そんなリスキーな政策に国民の命をかけるギャンブルのような政治は、いくら耳ざわりがよくても、ひとりの国民として絶対に支持することはできません。だから僕は、税の話から目をそらすことなく、実現可能なあるべき社会のすがたをみなさんと語りあいたいのです。