認められたいという欲求を満たす

 もうひとつ、消費税を中心にすることの大切な理由があります。それは「承認欲求」の問題です。

 哲学者アクセル・ホネットは、まわりの人から認められたい、という人間の承認欲求を満たすための条件を、次の3つに整理しました。

(1)家族から惜しみない愛を受け、自分自身を信頼できるようにすること
(2)他者と同じ権利をもち、道義的責任を果たすことで自己尊敬の感情を育むこと
(3)共同体などへの貢献をつうじて自分の価値を確認できるようにすること

 消費税は、たしかに、貧しい人もふくめたすべての人たちを負担者にします。

 でも、そこで思考を止めてはいけません。そもそも消費税の負担は、住宅手当で相殺されるどころか得をします。また、みなさんは、給付ですべての人たちの命や暮らしを保障しあうという、もうひとつの顔も知ったはずです。

《ライフセキュリティの社会》では、子どもはコストではなく、いつくしみの対象になると言いました。教育費負担から解放され、子どもたちを受験戦争から自由にし、まっとうな労働環境を手にした親たちは、子どもの成績にカリカリすることなく、おだやかな時間を過ごせます。子どもたちは、親から愛されているという確信をよりもつことでしょう。

 消費税は、貧しい人も、外国籍の人も、日本に暮らすすべての人がはらう税です。すべての人が納税の義務という道義的責任を果たすことになります。だからこそ、救済されるのではなく、サービスを利用する権利を私たちは手にできるのです。

 だれもが、納税の義務を果たし、将来への不安のない社会を作るための担い手になれる社会は、自分の属する社会、コミュニティを支えている自負をもつでしょう。それは、自分の価値を実感することができる社会でもあります。

 僕のねらいはまさにここなんです。

 税を語ればきらわれます。おまけに消費税はとりわけ批判の強い税です。僕だってこんな話をわざわざしたくありません。でも、耳ざわりのいい人気取りの政治評論ではなく、本気で将来の社会ビジョンを語ろうとすれば、この問題から逃げることはできません。

 僕はあたらしい社会像をリアルに示したいのです。どんな社会像? それは、他者から認められていることを実感できる、仲間とともに希望と痛みを分かちあえる、誇りに満ち、人間の顔をした社会にほかなりません。