ご本人は悪意に満ちた「ネガティブキャンペーン」だと反論をしたが、メディアの取材に対して「安倍元首相襲撃事件には悪政へ抵抗、復讐という背景も感じられ、心情的に共感を覚える点があったのは事実」と回答するなど、安倍元首相への憎悪があった点は、正直にお認めになっている。

 つまり、誤解を恐れずに言ってしまうと、一部の左派リベラルな人々にとって、安倍元首相というのは暗殺をしてでもその暴走を止めないといけない、日本に害をなすヒトラー級の独裁者、という認識だったのだ。

岸田政権でも続く防衛費増額や改憲
変わったことなど何ひとつない

 では、実際にそのような危険人物が「正義の暴力」によって排除されて日本はどうなったか。冷静にこの2年を振り返ってみよう。

「軽武装・経済重視」でハト派と呼ばれる宏池会で長く会長を務めてきた岸田文雄首相が、国の舵取りしたので、理屈としては安倍政権時に大騒ぎしていた「戦争のできる国」から遠ざかるはずなのだが、現実は逆だった。

 防衛費は安倍政権時と比べてドカンと増額され、24年度は過去最高の8.9兆円、GDPの1.6%にもなっている。安倍元首相がちょこっと口に出しただけでも「侵略戦争をするのか」と大バッシングだった敵基地攻撃能力保有を含めた安保三文書も、サクっと閣議決定した。

 安倍元首相が「ヒトラー」と攻撃される原因となった憲法改正も同じだ。今年1月の施政方針演説で、岸田首相はこれまで行政の長として明確に言及しなかった改憲を明言して、総裁任期中に実現をしたいと意欲を述べたが、どこかで大規模デモが起きたという話は聞かない。

 こういう事実を見る限り、安倍元首相が殺害されたことで変わったことなどひとつもない。むしろ、安倍政権時代に課題とされたことは、存命中よりも加速しているのだ。なぜ、こんな現象が起きるのか。

「そ……それは、自民党内にいまだに安倍的なものが残っていてだな」という感じで、イデオロギーやら政治倫理という話で、どうにかして安倍元首相のせいにしたい人たちも多いだろうが、これはそんな「ふわっ」とした精神論の話ではない。大企業などでもよく見られる「組織力学」だ。