シノサウロプテリクスWikipediaより

恐竜には羽毛が生えていたとされる研究結果は、この4半世紀で定着した。世界的な大発見だったが、その始まりは中国の農民による盗掘だったことはあまり知られていない。世紀の発見と中国の盗掘の闇を安田峰俊氏が描く。本稿は、安田峰俊著・田中康平監修『恐竜大陸 中国』(角川新書)を一部抜粋・編集したものです。

現代から見ると違和感が残る
『ジュラシック・パーク』シリーズ

 映画『ジュラシック・パーク』とその続編シリーズは、全世界の一般の人に向けて恐竜の魅力を「布教」した点で非常に重要な映画だ(なにより、ものすごく面白い)。ただ、竜脚類が二足で立ち上がってみせたり、ティラノサウルスが猛スピードでダッシュしたりと、体型から想像される筋肉の付きかたからは明らかに無理な動作をおこなっている点など、詳しい人が見ると突っ込みどころが多いことでも知られている。

 もっとも、多少は強引なこれらの設定は、エンターテインメントの「お約束」だ。目を吊り上げて突っ込みを入れるほうが無粋だろう。そもそも、琥珀のなかに残された蚊が吸った血液から恐竜を復活させるーー、という点からして無理があるのだが、それを言ってはオシマイである。

 だが、それでも違和感が大きすぎる問題もある。それは、シリーズを通して活躍する小型獣脚類・ヴェロキラプトルの皮膚に羽毛が生えていないことだ(なお、作中の描写を見る限りヴェロキラプトルにしては体格が大きすぎるので、正確にはドロマエオサウルス科の別の仲間のはずだが、ややこしいので以下も「ヴェロキラプトル」で通す)

 近年の恐竜図鑑では、小型獣脚類の仲間はほぼ例外なく、身体に羽毛が生えた状態で描かれている。図鑑によって羽毛量は違い、地肌のうえにポツポツと生えた程度から、鳥と同じくらい(正確には鳥も恐竜の一種だが)フサフサの復元図までいろいろあるが、とはいえ『ジュラシック』シリーズのように、のっぺりした肌のトカゲ型の生物として描写される例は皆無だ。

『ジュラシック』シリーズに登場する恐竜に羽毛がない理由は簡単である。現在はすでにおなじみの、鳥類そっくりの姿をしたヴェロキラプトルやデイノニクスの復元図は、ここ4半世紀で定着したものにすぎないからだ。

 ゆえに、シリーズ第1作の『ジュラシック・パーク』が公開された1993年の時点では、恐竜が羽毛を持つことは、仮説としては主張されていても、まだ一般社会では馴染みのない話だった。ところが、シリーズが人気になり、ヴェロキラプトルがシリーズを代表する「顔」になったことで、羽毛恐竜の学説が一般化してからも作品中で彼らの外見を変えるわけにはいかなくなってしまった(2022年夏に公開された『ジュラシック・ワールド 新たなる支配者』では、さすがに時流に合わなくなったのかついに羽毛恐竜も登場している)。