シノサウロプテリクスめぐり
捏造疑惑も起きたワケ

「シノサウロプテリクス」の命名者は季強だ。当初、季強たちはこの生物を原始的な鳥類だと考えていた。

 だが、やがてアメリカやカナダの古生物学者が続々と北京を訪れて検討を重ね、シノサウロプテリクスは羽毛を持つ、コンプソグナトゥスの仲間の小型獣脚類だと見なされていく。結果、これまで唱えられてきた「鳥=恐竜」説を裏付ける世界的大発見として注目されることとなった。

書影『恐竜大陸中国』(角川新書)『恐竜大陸 中国』(角川新書)
安田峰俊 著、田中康平 監修

 いっぽう、シノサウロプテリクスについては当初、誤認や捏造を疑う意見も出た。この時期の中国の恐竜発掘の現場では怪しげな話も多く、同じく遼寧省で化石が見つかり大きな話題になった羽毛恐竜・アーケオラプトル(Archaeoraptor)が、実は捏造されたものであったことが判明するなど、疑いを持たれるには十分な事情も存在したのだ。

 ただ、それから数年のうちに同じ遼寧省の熱河層群でコエルロサウルスの仲間であるプロターケオプテリクス・ロブスタ(Protarchaeopteryx robusta:粗壮原始祖鳥)や、オヴィラプトロサウルスの仲間のカウディプテリクス・ゾウイ(Caudipteryx zoui:鄒氏尾羽龍)、テリジノサウルスの仲間のベイピアオサウルス・イネクスペクトゥス(Beipiaosaurus inexpectus:意外北票龍)といった多様な種類の羽毛恐竜が相次いで発見された。結果、多くの小型獣脚類が羽毛を持っていたことが化石から裏付けられた。

 遼寧省の欲深い化石ハンターの農民の発見をきっかけに、世界の恐竜研究史は決定的なターニングポイントを迎えたのだった。