計画通りに増額できた
マンションは約6割

 マンションの平均的な修繕対応では、共有部分の日常的な補修に加えて15年周期などで大規模修繕工事が計画・実施される。後者の実施予定日が近づく中で、不足する額を毎月などの積立金の増額によって補うことを管理組合総会などで決議する対応が一般的だ。裏返せば、増額積立方式では、区分所有者間での合意形成なしに増額できず、増額できなければ予定していた修繕などが十分に実施できなくなる可能性を残す。

 調査結果には「直近の修繕積立金の増額状況」も含まれていたため、図表1同様に建物の完成年度別の切り口で結果を参照した[図表2]。

 一覧してすぐに分かるとおり、計画通り増額できたマンションは、全体の6割に満たない。

 築50年を超える1974年以前のマンションでも、4割以上で計画額まで増額ができず、結果として計画どおりの修繕ができなかった可能性がある。

 こうした経緯が積み重なる中で、積立金の不足額が膨張し、「耐震工事費がないため診断を行うだけ無駄だ」などの判断に至った事態が連想される。物価高や賃上げなど費用の上昇要因にこと欠かない昨今ゆえ、工事の先送り圧力が働きやすくなることを憂慮せざるを得ない。

 修繕積立金が不足する事象は、目論んでいた積立金の増額ができなかった場合だけでなく、区分所有者が、所定の積立額を期限までに積み立てなかった場合にも発生する。このため、調査結果から修繕積立金の積み立て状況の数値を抽出し、図表1・2同様に完成年度別の切り口かつ、前回調査との対比を行った[図表3]。

 結果は、完成年次が1985~1989年であった(4)を除く全ての区分で「延滞住戸あり」のマンションの比率が上昇した。有り体に言えば、5年間に毎月の管理費や修繕積立金の支払いもこと欠く区分所有者が増えたことに他ならない。

 世帯主に占めるリタイヤ世代の多い築古物件だけでなく、完成年度が2015年から2019年までのような築浅物件までほぼ漏れなく延滞率が上昇していることは注目に値する。物件価格が上昇する中、身の丈以上の価格の物件を背伸びして購入したものの、その後の返済負担に苦しむ事象が連想され、新型コロナの感染拡大の影響がもたらされた一面も認められよう。