マドンナに嫌われ、ズボンからは異臭…サエない中学生が進学校→教員志望を経て芸人になったワケ寺子屋こややの様子 (写真提供:寺子屋こやや)

近所付き合いやあいさつ、靴をそろえる…
豊かな人間性を育てていじめをなくす

――哲夫さんの教育論を提示する『がんばらない教育』(扶桑社)を読むと、近所付き合いや年上に対する言葉遣いなど、古き良き日本の美徳を大切にされている印象を受けました。

 小さい頃から教わってきたし、自分自身もその考え方が馴染むんですよ。だから、自分の子どもにもそこは厳しくしつけていますね。ただいま、おかえり、こんにちは、おやすみ、のあいさつから、靴をちゃんとそろえるとか。

――では、ご家族にとっては“怖いお父さん”の存在ですか?

 良しあしはあるでしょうが、父親が怒ったらいちばん怖いっていう方がいいかなと思ってね。でも、厳しいばっかりじゃなくて、思いっきり屁をして、「今お前、屁ぇしたやろ?」とか言うて。だから、うちの子どもらはめっちゃツッコミ上手になってきました(笑)。

――お金に対する価値観はどのように身に付きましたか。

 うちのおばあちゃんが、奈良で商売をやってたんで、自然とお金の大切さが身に付いたというか。お金をいかに無駄にしないかとか、先行投資とか。これが経費で、積み立てにはどんな意味があって、お金はお釣りになるからキレイに扱うとか。

――芸人として売れてからも、そうした価値観は変わりませんか?

 大学の時に、後輩にごちそうする文化がある同好会に入ってたし、芸人の世界はまさにそうでしょ。だから、後輩にごちそうしてお金を払って、「いつもありがとうございます!」って言われると、またおごってあげたいって思うんですよ。でも、自分に使うお金ってなると、厳しくてね(笑)。例えば、地方で、イクラとか入った豪華なおにぎりじゃなくて、底値の普通のおにぎりを選んでまうんです。

 今日はどれくらいの稼ぎがあって、そこから家にいくら入れて、税金がいくらで、近々仕事で使う服を買わなあかんから、使えるお金はいくらか――それぐらいのことをパッと頭の中で計算はできますね。生きる上ではそういう力は絶対に必要ですから。

――経営する「寺子屋こやや」では、学習に加えてそうした思いも伝えているのですか?

 日本の美徳は伝えようとはしています。そういう価値観に触れて豊かな人間性を育てると、学校でのいじめとか、そんなことをしなくなると思うんです。僕は、いじめが大嫌いでニュースで見るだけでも、心底落ち込むんで。広い意味での教育を通して、子どもたちに伝えられたらと思ってますね。

 ただまあ、子どものことはマジメに考えてるんですが、そんなんばっかりとちゃいますよ。たまに、嫁にどんなもんを食わしたら浮気させてくれるかなとかも考えてますから(笑)。

自身の経験を踏まえ、豊かな人間性を育む教育を大切にされてきた哲夫さん。その思いをさらに広げようと、補習塾「寺子屋こやや」を経営することに。記事後編では、塾の経営や、教育格差への危機感、そして、教育を通して成し遂げたい目標についても語ります。

>>後編『ヤンチャな生徒を公園に呼び出して…M-1王者が「格安塾」でガチンコ指導に取り組む理由』に続きます

マドンナに嫌われ、ズボンからは異臭…サエない中学生が進学校→教員志望を経て芸人になったワケ1974年、奈良県生まれ。関西学院大学文学部哲学科卒業。2000年に西田幸治とコンビ「笑い飯」を結成。数々の栄誉ある漫才賞を受賞し、2010年にはM-1GPで優勝。現在は、上方を代表する漫才師として精力的に活動しながら、塾経営、農業、わらじ作り、作家など、多方面で活躍を続けている (撮影:大森泉)