ただし、1時間以内に放射性物質の崩壊が起きるかどうかは確率が2分の1になるように調整されています。

 つまり、猫が死んでいるかどうかは、小窓を開けるまでわかりません。一体、猫は死んでいるのでしょうか?それとも生きているのでしょうか?

【解説】

 物理学者のエルヴィン・シュレーディンガーがつくった思考実験「シュレーディンガーの猫」です。

 ミクロの世界の原子には、ウランのように時間が経つと、原子核が崩壊して、放射線を出すものがあります。ミクロの現象を解釈する量子論(量子力学)によると、そうした原子は、原子核が崩壊した状態とそうでない状態が共存しています。そして、原子核が崩壊したかどうかは、実際に観測したときにわかるというわけです。

 ミクロ世界の現象を生きている猫に適用すると、どのような状態になるでしょう?

 答えは、量子論の世界のルールで説明すると、「死んでいる猫と生きている猫が重なり合っている」という状態が考えられます。

 放射性物質の崩壊は、ミクロの世界の出来事です。これを説明する量子論(量子力学)の伝統的な解釈である「コペンハーゲン解釈」を適用して、この状態を説明すると、前述のように猫が奇妙な状態になっているというのです。

 しかし、ミクロの世界の観測ルールをマクロの世界、しかも生命を持っているものにそのまま単純に適用していいのでしょうか?実は、シュレーディンガーも同じことを考えていました。箱の中の猫に起きるような現象のルールを他の世界でも無限に適用していいのかどうかをこの思考実験で考えたのです。

 近年科学が進歩して、見えない世界の見えないしくみが次々に明らかになっています。

 量子論を応用した量子コンピューターの世界では、原子や分子の構造を電子の状態やエネルギーから計算する方法が取り入れられています。量子コンピューターの計算によって、未知の物質を解析したり、環境問題を解決する材料を開発することも可能になります。

 しかし、そうしたミクロの世界とマクロの世界のつながりは、私たちがいまだに発見していないなんらかのしくみがあるのかもしれません。そうした疑問を持つことも、発想力を鍛える上では必要なことでしょう。

 結局、猫の生死が決まるのは、観測者が箱の小窓を開けて、猫の生死を確認したときということになります。