宅配便の生みの親であり業界最大手のヤマトホールディングスが「脱・国内宅配便依存」を急いでいる。来年1月、悲願の海外宅配便事業に乗り出す。国内では100事業を育成する「ムカデ作戦」を展開。新戦略へ突き進む背景には、宅配便誕生以来、初めて前年割れとなった国内市場の成熟がある。(取材・文/『週刊ダイヤモンド』編集部 臼井真粧美)

 喉が焼けつくアルコール度数50超の中国酒を数十杯。昨秋、ヤマトホールディングスの瀬戸薫社長は中国・上海で人生最大の深酒を体験した。酌み交わしたのは中国政府系の物流会社、上海巴士物流有限公司の関係者だ。

 同行した部下や相手先の幹部が次々と酔いつぶれるなか、瀬戸社長はひたすら杯を空け続けた。中国では酒を酌み交わすほどに友情が深まるといわれる。そのとおりであれば、このとき、数世紀は縁の切れない友情を得たことになる。

 はたして、今年8月26日、現地で上海巴士物流との調印式が200人もの列席者が見守るなかで盛大に開催された。式の前日も酒を酌み交わし、瀬戸社長は2日酔いの頭を抱えて壇上に立った。

 顔色は悪くとも、心は躍っていた。ヤマトが国内で宅配便を生み出してから30余年。ついに海外で橋頭堡を築いた瞬間だった。

 契約締結により、上海巴士物流が実施する約35億円の第三者割当増資を引き受け、65%を出資する。社名は「雅瑪多(中国)運輸有限公司」に改称。来年1月、営業を開始する。

上海に続き3ヵ国進出
アジアの雄への野望

 「出遅れている」。ヤマトの海外展開は長らくこう指摘されてきた。

 フォワーディング(貨物輸送代理)業務は海外拠点を持ち、宅配便では台湾で現地企業とライセンス契約を結び、ヤマトブランドのサービスが展開されている。

 しかし自らの手による海外宅配便事業では、佐川急便を中核とするSGホールディングスが2003年に上海、北京で営業を開始しており、後塵を拝した。