しかし、私が健康を維持する上で重要視しているのは「足し算の治療」です。
これまでに30年以上、高齢者と向き合って診察を続け、アンチエイジング医療も行ってきた経験から、高齢者には数値にこだわる引き算的な治療ではなく、自分の体に不足しているものをどんどん足していく足し算の治療が重要だと考えているからです。
ある程度の年齢になったら、栄養は引いてはいけません。
年を重ねても若々しく健康的に生きるためには、不足している栄養を「足す」ことこそ大事なのです。
たとえば、ブドウ糖をエネルギーに変えるためのビタミンB1が足りなくなると、摂取したカロリーをエネルギーとして活用できなくなります。すると、消費できなかったカロリーが脂肪として体に残り、基礎代謝が悪くなって老化が進んでしまいます。
また、肉類を食べないと、セロトニンが不足してホルモンが活性化しません。
タンパク質が不足すると、肌のハリや髪のこしが失われ、見た目の老化も進みます。
女性はカルシウムが足りなくなると、骨粗しょう症になる可能性も高くなります。
さらに、健康のために塩分を控えすぎるのも考えものです。
50代以降は腎臓がナトリウムを保つ機能が低下していくため、塩分が足りないと低ナトリウム血症に陥ることがあるからです。低ナトリウム血症は、最悪の場合、意識障害や痙攣に結びつくこともあります。こういうときに運動をしていると危険なのは、言うまでもありません。
「余っている害」よりも
「足りない害」のほうが大きい
このように、食事を制限すると体に必要な栄養素が不足して元気や活力が奪われ、免疫力にダメージを与えてしまうこともありますから、50代以上は栄養が「余っている害」よりも「足りない害」のほうが大きいのです。
年をとったら食べ物の品数を増やして、逆に足りないものを足していくほうが老化を防ぎます。これから老年期に向かう中高年も、不足している栄養をしっかり摂ることを考えましょう。
健康診断で血圧や血糖値に高い数値が出たときは、すなわち動脈硬化の危険因子ということにされますが、その場合もすぐに何かが起こるというわけではありません。そのまま動脈硬化が進んでいけば、20年後などのかなり先に脳梗塞や心筋梗塞になりかねないことが予測できるということです。