2005年にバンダイとナムコが経営統合し、その後、2010年に本格的なIP軸戦略がスタートしました。統合当初は市場と顧客の変化に対応するのに苦労し、スピード感が足らず両社の強みを生かしきれなかったため、業績が低迷しました。

 そこで、グループ内でもっとも重要なものは何かを考え、共通の価値であるIPを最大化する戦略をスタートしました。それ以降、さまざまな事業や会社がIPを軸に連携するようになり、企業の成長へとつながりました。

経営統合の混乱を乗り越えて
ドラゴンボールは売上高10倍超

――IP軸戦略の成果について具体的に教えてください。

宇田川南欧 バンダイナムコエンターテインメント代表取締役社長うだがわ・なお/1974年、東京都生まれ。94年、バンダイに入社。デジタル分野の事業開拓に携わり、2015年、バンダイナムコエンターテインメント初の女性取締役に就任。18年に同社常務取締役、21年にBANDAI SPIRITS代表取締役社長を経て、23年4月にバンダイナムコエンターテインメントの代表取締役社長に就任。 Photo by M.K.

 当社グループには「ガンダム」「ドラゴンボール」「ワンピース」というIPによる収益の三本柱があります。それぞれグループ売上高で1000億円を超える規模になっています。具体的には2023年度で、ガンダムは1457億円、ドラゴンボールは1406億円、ワンピースは1121億円でした。

 IP軸戦略の開始当初、例えばドラゴンボールの売り上げは2011年度には118億円でしたので10倍以上になりました。このIPの売り上げ向上は、他社との協力やグループ内の連携の結果と考えています。

 ガンダムは当社グループのIPですが、ドラゴンボールとワンピースは他社のIPをお借りしています。それらのIPはゲームやネットワークコンテンツ、家庭用ゲームとして活用されています。

 また、「パックマン」や「鉄拳」など自社ゲームから生まれたIPもあります。これらのIPはさまざまな商品の形で展開されるため、その認知度も高まります。

――最近は特に海外展開が成長の主な要因となっているようですね。

 IP軸戦略を採用したことで業績が上がったのはもちろん、それ以外にも多くのプラス効果がありました。

 例えば、パックマンを使ったライセンス事業を通じて国内外の広告にも採用され、IPの知名度が高まったことです。パックマンはアメリカで非常に高い認知度を持っているキャラクターで、多くの企業から引き合いがあり、ゲーム以外でも愛されています。誰もが知るポップなキャラクターで私もとても好きです。

――そういえば、メジャーリーグのエンゼルス戦の中継でパックマンの広告を見たことがあります。

 バンダイナムコグループのアメリカ拠点がエンゼルスの本拠地に近いカリフォルニア州アーバインという場所にあるため、パックマンを使ったプロモーションやイベントも行っています。例えば、エンゼルスの試合中にパックマンのキャラクターを使った企画を実施し、球場のお客様に楽しんでいただく機会を作っています。

ガンダム、ドラゴンボール、ワンピース…グループ売上高1000億円超えの三本柱に成長させたバンダイナムコ「IP軸戦略」の真価PAC-MAN™& ©Bandai Namco Entertainment Inc.

 現ドジャースの大谷翔平選手の活躍もあり、このプロモーションは注目されましたが、それだけが理由ではありません。会社としてエンゼルスを応援したいという思いから球団のスポンサーになり、今もその活動を続けています。

――なるほど。そうやってIPの価値がさらに高まるわけですね。

 そうです。例えば、ライセンス事業ではゲーム以外の分野でも商品化し、他社にもグッズ製作を依頼してIPの認知度を上げつつ、それを再びゲームで活用する。そうしたスパイラルを作り出すことで、事業の特性を活かしています。

――先ほど統合後に業績が低迷したという話がありましたが、リーマン・ショックなどが経営に影響を与えたのでしょうか?