外的な要因というより、統合初期の混乱などが影響したのでしょう。二つの会社が統合したことで、何が重要な軸になるのかを見失っていた部分もあったと思います。
2010年にバンダイナムコグループが経営統合以来、初の最終赤字に転落したとき、会社が将来どうなるのか、統合後の会社で何をしていくのか私自身も悩んでいました。
しかし、グループとしてIP軸戦略を定めたり、ちょうどモバイルゲームが出始めていたりしたこともあって業績は回復しました。あの時の苦境を乗り越えられて本当によかったと思います。
――コロナ禍で少し収益が落ちていますが、その後は右肩上がりですね。
各地のイベントなどでファンを広げてきました。そしてコロナ禍の巣ごもり需要に加えて、配信プラットフォームが充実したことなどでアニメの配信が普及し、日本のIPの認知度がさらに高まりました。
テレビ放映に加え、世界的にインターネット配信が広まったことで、タッチポイントが増え、ビジネスチャンスが拡大したと思います。
さまざまなイベントがストップしましたが、デジタルコンテンツやゲームのダウンロードは非常に好調でした。人々が家庭で過ごす時間が増えたため、家庭でも楽しめるデジタルコンテンツへの需要が高まったと感じています。
世界で3億5000万ダウンロード突破
「ドッカンバトル」の成功例
――IP軸戦略を打ち出して以降、エポックメーキングとなった作品はありますか?
キャラクターの認知度については地域によって異なります。例えば、「アイドルマスター」は日本で非常に高い知名度を誇っています。一方、ドラゴンボールは世界中で人気があります。
そして主力アプリである「ドラゴンボールZドッカンバトル」は、リリースから約10年たって全世界で累計3億5000万ダウンロードを達成しており、業績を支える重要な大黒柱となっています。海外のお客さまにも非常に人気があるゲームです。
毎年開催している「ドラゴンボールゲームスバトルアワー」というファンコミュニティーイベントがあります。このイベントでは、ゲームだけでなく、バンダイが出しているカードゲームともコラボレーションを行い、新しい情報などの発信も行っています。こうした活動を通じて、IPの盛り上がりを一緒に作り上げています。
2024年はドラゴンボールの新しいゲーム「ドラゴンボールSparking! ZERO」がリリースされる予定で、新たな展開を計画しています。
©Bandai Namco Entertainment Inc.
――ドラゴンボールの作者である鳥山明先生の訃報がありました。今後、ドラゴンボールのコンテンツはどうなっていくのでしょうか?
鳥山先生のことはとても残念です。お悔み申し上げます。
もちろん影響は大きいですが、私たちとしてはドラゴンボールの商品展開を続けていくことが重要だと考えています。原作、ストーリー、キャラクターデザインを鳥山先生が手掛けた完全新作アニメ「ドラゴンボールDAIMA」が始まります。今後も新たな商品を作り出し、ファンの期待に応えることが先生の遺志を継ぐことだと思っています。
世界中のファンが先生の訃報を悲しんでおり、ドラゴンボールへの関心の高さがうかがえます。これからも魅力をしっかりと伝えていくことが重要です。
――IPごとに販売戦略の違いや特徴はありますか?
ガンダム、ドラゴンボール、ワンピースが全体として大きく成長している中で、特にガンダムはプラモデルが非常に人気があり、世界中で展開している点が挙げられます。また、ドラゴンボールはゲーム市場で非常に強いですし、ワンピースはカードゲームがすごく盛り上がっています。
これらのIPを使ったガシャポン(カプセル玩具)も人気を博しており、こうした多様なグループの出口があることで、より多くの人々に愛されています。
――ガンダムでもエポックメーキングとなった商品があると伺っています。
ガンダムに関しては、2010年に初めてモバゲーで発表した「ガンダムロワイヤル」です。このゲームは、当社グループが所有するキャラクターを使って初めて基本無料で提供したゲームでした。
それまで、ゲームを無料で配信するという考えは世間にほぼありませんでした。だから、怖さもありましたね。
モバゲーを運営する企業は自社のゲームを無料で提供し、追加コンテンツに対して課金する仕組みを作りました。これが現在のアプリゲームビジネスの原型となっています。ガンダムロワイヤルの無料配信は、社内外で賛否両論がありましたが、この決断が私たちのビジネスモデルを大きく変える転換点となったのです。
従量課金制のゲームは、発売したら分単位で売り上げが出てきますので、みんな歓喜したのを覚えています。当時はすごく業績が落ち込んでいたので暗い雰囲気だった会社が、「これでまたビジネスができるかも」と一転して明るい雰囲気になりました。
一つ成功すれば、当社は次の手を打つのがすごく早いので、続けざまに基本無料のゲームをどんどん発売していきましたね。
(後編へ続く)