「国債は国民の資産」って本当?経済学者が教える「良い借金」と「悪い借金」の根本的な違い写真はイメージです Photo:PIXTA

景気が変動する中で、国債は財政の調整弁となるものだ。しかし、景気の動向に拠らない構造的な赤字まで国債で賄おうとするのは、将来世代にツケを回す借金にほかならない。「国債は国民の資産」とも言われているが、果たして本当にそうなのか?経済学者である筆者が、本来あるべき財政赤字の規範について問いかける。本稿は、佐藤主光『日本の財政―破綻回避への5つの提言』(中公新書)の一部を抜粋・編集したものです。

建設国債などの元利償還費は
経済成長による税収増から捻出すべき

 国の借金=財政赤字が常に悪いわけではない。「良い借金」と「悪い借金」がある。「良い借金」とは、将来の成長や福利厚生(ウェルビーイング)の増進に繋がる借金だ。

 企業活動でも、設備投資や研究開発のために借入をして資金を賄い、将来の収益を借入金の元利償還に充てる。国もこれと同様である。インフラ等の整備に国債を発行し、将来の成長による税収増から元利償還費を捻出することはあってよい。

 将来世代もそのインフラから受益するから、彼らに応分の負担を求めるのは世代間の公平にも適っている。そういった根拠から、建設国債には「60年償還ルール」が適用されている。

 60年償還ルールとは、政府の長期国債を60年かけて完全償還することを指す。元々は、インフラの耐久期間が概ね60年であることが反映されていた。

 例えば、満期10年の国債を6兆円発行したとしよう。10年後の満期に、6兆円のうちの1兆円(発行額の6分の1)を償還し、5兆円を新たに借り換える。次の10年後には5兆円のうちの1兆円を償還して残った4兆円を借り換える。これを繰り返して60年後に完全償還するのである。そのために一般会計からは毎年度、国債の発行残高の(約60分の1に相当する)1.6%を償還費として「国債整理基金特別会計」に繰り入れることが法律で定められている。

 インフラ整備などの公共事業は不況時の景気対策でもあるが、中長期には経済成長に資するものでなければならない。公共事業には、財政の経済安定化機能(=景気対策)と資源配分機能(=成長戦略)との整合性が問われる。案としては、不況期には計画を前倒ししてインフラ整備を実施する一方、景気が過熱したときはそれを先送りするなど、公共事業のタイミングを変えることが考えられる。

将来世代にツケを回す
「悪い借金」

 また、景気が変動する中では、国債は財政の調整弁ともなる。不況期で税収が低迷するときは、不足分を国債で賄い、景気が上向き税収が増えたタイミングで元利を返済すればよい。つまり、課税は長期の財政収支を均衡するようにして決め、短期の増減は国債の発行とその償還で調整する。これを「課税の平準化」という。

 このように、財政赤字は短期的には許容される。ただし、景気の動向に拠らない構造的な赤字は課税を強化して解消し、平時の財政収支の均衡を図るのが望ましい。