間髪入れず
筆者を怒鳴りつける土居さん

「だいたい、お前がきちんと整理しておけば、こんなことにならなかったんだ。我々の仕事はこんなんじゃダメだ。ちゃんと謝れ! すぐに、片づけろ」

 それからも土居さんは厳しく私を叱りつけます。私は「申し訳ありません。以後こういうことのないように気をつけます」と平謝りです。主人と奥さんに深々と頭を下げて、二人で片づけに取り掛かります。

 腕組みをしている主人の傍らで、奥さんは事情を察してきまり悪そうにこちらを見ています。在庫スペースを片づけて店を後にします。営業所に帰るクルマの中で、土居さんが話しかけてきます。

「どうだ、気分は。これでしっかりと我々の姿勢が相手に伝わったから、まぁ良しとしよう」

「良しなんですか。正直きつかったです。事前に『覚悟して叱られろ』と言われていたからなんとか耐えられましたが、そうでなかったら『なんでこんなことを言われるんだ』とさらに落ち込んでいますよ。第一、こちらに落ち度がある訳ではないですから」

 この状況に釈然とせず文句も言いたくなります。土居さんは「悪い、悪い。でも、これで一番いいかたちで収まったから勘弁しろ」と涼しい顔をしています。

 そう言われても何がなんだかわかりません。まぁ、すし安の怒りも収まったからいいかとひとまずホッとしてクルマを走らせます。

 翌週、すし安の訪問日です。前回の件があるのでなんとなく敷居が高いのですが、伺わない訳にはいきません。店のドアを開けると奥さんがいます。「また、何か言われるかなぁ」と内心落ち着きません。

「先週は悪かったわね。先輩の方、あんなにきつく叱らなくてもいいのにね。だから若い人たちがついてこないのよ。それにしてもあなたのところは本当に仕事に対して厳しいのね。びっくりしちゃった」