つまり、転職や賃金、配属において「ジョブ」が市場と照らした参照単位として機能します。

 日本の管理職ポジションは、このような意味での「ジョブ」として成立しません。課や部の「代表者」として、組織内の閉じた役割を担い、近年ではそれが「多忙すぎる雑用係」に堕ちていっています。成長実感を得られにくい他所からこぼれてきた仕事や、判子を押すだけの承認仕事が多くなり、それらが管理職の負荷実感を上げています。

 さらに、「ジョブ」には関係なく広範囲の異動の対象となり続けるため、領域の専門的スキルや知識が身につきにくく、現場ではますます「代表者としての雑用」しかできなくなっていくということになります。

その職場のメンバーの中で
管理職は業務を最も知らない

 現場の声をいくつか挙げてみましょう。

「出向してこの職に就いたので、業務上の優位性が部下に対してなかった」(53歳、男性、運輸・郵便業)

「役職に就く直前に部署が替わってしまい、職場も人も知らない状態から再スタートとなった」(52歳、男性、製造業)

「慣れない部署のトップになったので業務の理解に苦しんだ」(50歳、男性、サービス業)

 こうしたことの最終的な表れが、まさに「管理職になると、市場価値が低下する」という逆説的な事態なのです。すでに今、ITエンジニアなどは、「専門性を失うから」「現場感を失うから」「転職できなくなるから」と、マネジャーになりたがらない傾向が強まっています。日本の管理職の複合的な特殊さは、キャリアを今の会社で閉じたくない専門職にとっては、非合理的なものに見えるのです。

管理職はもはや罰ゲーム!「忙しすぎる雑用係」に仕立て上げられる恐怖の構造『罰ゲーム化する管理職 バグだらけの職場の修正法』(インターナショナル新書) 小林祐児 著

 本来、管理職とは、メンバー層では得られない様々な経験とスキルを養うことができるポジションです。例えば、組織の向かう方向を示す力や戦略策定の力、部下を育成する力などは、メンバー層や専門職では得られにくいものです。「経理機能の全体のマネジメント」や「営業部門の部下マネジメント」といった本来の役割で外部にアピールできるのであれば、転職マーケットでの価値を高めることができます。

 中途採用が増える中で、そうしたマネジメントポジションの求人も、かつてよりも増えてきています。しかし、今述べたような組織構造の中で、ただの「雑用係」になってしまえば話は別。「部長ならできます」と言う管理職の出来上がりです。