また、上司の行動として多いものを順に並べたパーソル総合研究所の調査データ(図表34)でも、世界の上司の行動で全体1位に入るのは、部下の「スムーズな業務進捗への支援」です。まさに部下の仕事がうまくいくような支援的役割がマネジャーの仕事ということでしょう。

図表4:マネジャー行動の国際データ同書より転載
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 それに対して、この項目は日本では7番目と下位に沈みます。日本で上位に挙がってくるのは、「メンバーに対する平等な接し方」と「ミス発生時の十分なフォロー」です。管理職がチームの「代表」として平等に振る舞い、部下の仕事になんらか支障が生じたときのトラブル対応を担う役割であることがここにも端的に表れています。見る範囲が広い分、そのトラブル対応の範囲も広くなるわけです。

 また、先程見た日本のキャリア構造も、ここに大きく関わってきます。日本の管理職は、長くて遅い選抜のため、管理職になったあとも長い間ジョブ・ローテーションの対象になり続けます。総務部長が急に人事部長になったり、部や課をまたいだ管理職の兼務も当たり前に行われます。欧米企業でも上級幹部層の候補者は部門横断的なジョブ・ローテーションの対象になりますが、それは選ばれた少数のエリートのみです。日本は40代を過ぎても、多くの管理職が会社都合でコロコロと部門をまたいで異動していきます。

管理職はジョブではなく
多忙すぎる雑用係にすぎない

 こうした組織構造とキャリア構造によって、日本企業において管理職というのは、広報や経理、営業といった具体的な「ジョブ(職務)」に紐づいたポストではなく、「社内階層の高さ」を示すものになりました。だからこそ、「経理のマネジャー」や「営業のマネジャー」ではなく、「管理職」という同一の階層として日常的にも使われる言葉になっているのです。

 さて、ここまでくれば、「管理職がなぜ市場価値につながらないのか」という問いへの答えが見えてきました。

「ジョブ(職務)」という概念が、「役割」や「ミッション」と異なるのは、企業を横断して「職業」としてのマーケットを形成できることです。「ジョブ型雇用」がいくら話題になってもこのことがなかなか理解されないのは、そもそもこの「ジョブ」の意識が、この国に希薄だからでしょう。

「ジョブ型雇用」の要点は、ポストごとに職務が明確化され、ポスト数が限定化されていることだけでなく、それが企業横断的な意味を持った「ジョブ」という一般的単位で扱えることです。