ネガティブな刺激に弱くなったら
とりあえず寝てみよう

 ところで、睡眠不足と感情について、国立精神・神経医療研究センターの三島和夫部長らが、大変興味深い実験を行っています。

 その実験とは、まず、健康な成人男性に5日間の「充足睡眠セッション(平均睡眠時間約8時間5分)」と5日間の「睡眠不足セッション(平均睡眠時間約5時間36分)」の両方を体験してもらい、その時の脳活動の変化を調べるというものです。

 それぞれのセッションの最終日、被験者に様々な表情の写真を見せ、その際の脳活動の変化を機能的MRIで測定したところ、「恐怖の表情」の写真を見た時に、睡眠充足時に比べて睡眠不足時のほうが、左脳の扁桃体の活動が増えたそうです。同様に「幸せな表情」の写真も見せたそうですが、睡眠不足時でも扁桃体の活動が増えることはなかったと言います。

書影『精神科医だけが知っているネガティブ感情の整理術』『精神科医だけが知っているネガティブ感情の整理術』(ハーパーコリンズ・ジャパン)
伊藤 拓 著

 つまり睡眠不足時には、ネガティブな刺激に対してのみ扁桃体が過剰に反応することがわかったのです。

 この実験によって、健康な人でも5日間の睡眠不足で左脳の扁桃体の活動度合いが高まり、度合いが高まるほど、不安や抑うつの症状が強くなる傾向にあることも確認されています。

 思うに、人は生存本能によって、生命の危機を回避することを最優先します。脳が疲れている状態では、幸せな表情よりも生死にかかわりそうな恐怖の表情のほうに反応したのも自然なことだと思います。

 なんとなく気持ちが落ち込んだ時、イライラしてしまう時など、もしかすると寝不足で脳が扁桃体をうまく制御できていないことも考えられます。とりあえず寝てみると、脳の疲労が回復し、気持ちを落ち着けることができるかもしれません。