AI企業は「すぐ」にはもうけられない

 8月2日、米労働省が発表した7月の米雇用統計で、非農業部門の雇用者数の伸びは予想を下回った。失業率は4.3%に上昇した。FRBは、物価安定と完全雇用の二つの責務を負っている(デュアル・マンデート)。金融引き締めによって物価は緩やかに2%に向っている。

 一方、金融引き締めにより労働市場が軟化している不安は高まった。米国の個人消費が減少に向かうとともに経済成長率は低下し、企業収益の増加ペースも鈍化するとの懸念から雇用統計発表後、米国株は下落した。

 それに加えて、大手AI企業の収益増に時間がかかるとの見方も、株の売り材料になった。22年11月末のChatGPTの公開をきっかけに、関連分野で設備投資を積み増す企業は増えている。投資家の多くは前のめり気味に、設備投資は迅速に収益の獲得に貢献すると考えた。その結果、期待先行で米国などのAI関連銘柄は上昇した。

 現在、世界的に生成AI関連の初期投資はほぼ一巡した感がある。重要なのは、今後の展開だ。4~6月期の米主要企業の決算を見ると、AI分野で設備投資を増やしたが、収益が予想を下回った企業が多い。特に、マイクロソフトのクラウド事業(アジュール)の増収率が予想に達せず、この結果に投資家は失望した。アルファベット(グーグル)やメタ(Facebook)、アマゾンなどにも同様のことがいえる。

 8月1日に決算を発表したインテルは1万5000人(全従業員の15%)の人員削減も含めたリストラクチャリングを進め、今後の成長の基盤を再構築するという。ただ、それには時間がかかるとみられる。

 IT先端企業がAI分野で競争力を発揮するため、今後も設備投資は増えるだろう。投資が遅れれば、競争力低下のリスクは高まる。問題は、投資を実行し、収益が増えるまでに時間がかかることだ。投資を増やし、それに伴い短期的にフリー・キャッシュ・フローが増えるビジネスモデルではない。期待先行で高値圏に上昇した銘柄を売りに回る投資家は増えただろう。